内容説明
【第3回ハヤカワSFコンテスト佳作受賞作】
地球を浸食しながら巨大化する異次元存在〈涯て〉が出現した近未来。
ある夏の日、疎開先の離島で暮らす少年は、転入生の少女ミウと出会う。
ゆるやかな絶望を前に、ふたりは様々な出来事を通して思い出を増やしていく。
一方、終末世界で自分に価値を見いだせない3Dデザイナーのノイは、出自不明の3Dモデルを発見する。
その来歴は〈涯て〉と地球の「時間」に深く関係していた――
現役ゲームデザイナーによる初小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みっちゃん
85
地球に現れた巨大な異世界の存在に少しずつ侵食され、緩やかに滅亡へ向かう世界。その「涯」の侵食を少しでも遅らせるよう編み出された技術。「祈素」「中継者」などの造語が興味深い。中継者である老人の記憶にある、少女と過ごした一夏の思い出の文章がとても美しくて、優しい気持ちになれる。あまりに心地よくて、「こんな終末ならまあ、いいか」と思わされてしまった。2015/11/28
おかむー
75
表紙の「夏の海と少年少女」「水平線に浮かぶ“涯て”」から、(1)爽やかでノスタルジックな夏の日々、(2)SF的異次元からの侵食、のふたつが並行して描かれる物語を想像して読んでみたら、内容はそのとおりなんだけど(1)と(2)の比率が想像とはちょっと違っていたモヨウ(´・ω・`)。「もうすこしです」。具体的に言うとSF部分が強めで思ったよりも殺伐とした感触だったということ。少女ミウの正体と物語の結末も、話の展開から予想できる範囲を覆してはくれなかったしね。世界の全ての情報を網羅したときに起こることは興味深い。2015/12/28
ゆかーん
54
人間の「記憶」と「時間」に関する物語。<涯て>という別の宇宙が地球を浸食し、人間を死なせようと企む世界。人間の記憶をすべて写し取ろうとするための意識体(デバイス)として姿を現したのは、ミウという一人の少女。彼女の存在が一人の青年の生き方を大きく変えてゆきます。混染された青年の記憶に残されたのは、一方向に進む以外の時間の存在。死ぬことのない、生き直せない時間が存在したとき、人は新しく何かを作ることをやめてしまうのでしょうか…。過去の記憶に縛られた、「ヒト」に待ち受ける未来を想像するのが怖くなります。 2016/04/06
ジンベエ親分
51
純SFとか哲学系SFと自分が勝手に名付けている系統のSF(笑) ただ、瑞々しいボーイ・ミーツ・ガールの側面あり、またちょっと懐かしいサイバーパンクの側面あり(誤解を恐れずざっくり言ってしまえば「マトリックス」的な世界観)、謎の3Dモデルというミステリー要素あり、そして終末モノの側面もあり、という短い割になかなか贅沢な小説。意識とは、時間とは、という課題を理詰めに定義付けして考察して、それではそれらがこういう性質を持てばどうなる?という問題を設定して深く考察してみた話。頭を振り絞って読めばまた楽し?2018/09/05
絹恵
48
人は自らの意思に意味を求めるけれど、もしかしたら情動に意味は必要ないのかもしれません。それでもそんな意味を飲み込むために、意識と意識を繋げて得た混じり気のない共通認識は、酷く味気ないです。計劃に示された、真綿で首を絞める世界でした。夏の青を、冬の白を、同じように見て違うように感じることが出来るからこそ、同じように感じられた時間が永遠のような一瞬に変わるのだと思います。2016/04/14