内容説明
名作『夕べの雲』から三十五年。時は流れ、丘陵の家は、夫婦二人だけになった。静かで何の変哲もない日常の風景。そこに、小さな楽しみと穏やかな時が繰り返される。暮らしは、陽だまりのような「小さな物語」だ。庄野文学の終点に向かう確かな眼差しが、ふっと心を温める。読者待望の、美しくもすがすがしい長篇小説。
感想・レビュー
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pirokichi
28
すごくよかった。何冊目だろう、庄野さんのこの日記風のご著書を読むのは。老夫婦の穏やかな生活が淡々と描かれているだけなのに、とても豊かだ。仕事が忙しくてちょっと気持ちが荒れていたのだけど、この本を読んでいる時だけは、穏やかな気持ちになれた。「うれしい」「ありがとう」「よろこぶ」…今は亡き庄野潤三さんご夫婦に心からこの言葉を捧げたい。2023/05/31
qoop
6
日常風景を断章で綴った著者晩年の作。同様の題材を小説の形式で書いていた時期と比べると、その違いに戸惑う。小説を成立させる構成力を失ったとすれば老化ゆえだろうが、そこから解き放たれた捨象の成果だとすると老練の技だろう。赤瀬川原平のいう本来の意味での「老人力」が十然に発揮された作品なのかも知れない、と胸を衝かれた。また宝塚関係の文章は個人的に興味深かった。大浦みずきという芸名は著者によるもの(p231)という記述を直接読んだのも初めてだったし。2021/11/28
刳森伸一
3
『夕べの雲』から始まる(よね?)山の上シリーズの5作目(らしい)。『夕べの雲』と異なり主人公も一人称となり、完全に私小説となった。日常の些細な出来事が矢継ぎ早に描かれる。良いところもあるけれど、日記的な記述が多く、『夕べの雲』に比べると退屈だった。2018/09/24
みなず
3
あらまぁ、とか、良かったねぇ、とか、そんなに心配されなくても大丈夫、など、つい一人ごちながら、一気読み。孫の結婚、私の履歴書の連載など、うれしくて喜ばしい出来事満載。心暖まる解説も、良かった。『山の上シリーズ』を五月雨的に読んできた私としては、これで完結。『ありがとう』。2015/11/14
笠井康平
0
ずーっと書ける方法の発見2019/01/04