内容説明
生まれるより先に死んでしまった子に名前などつけてはいけない――なにげない日常の隙間に口を開けている闇。それを偶然、覗いてしまった人々のとまどいと恐怖。日本の土俗的な物語に宿る残酷と悲しみが、現代に甦る。闇、前世、道理、因果。近づいてくる身の粟立つような恐怖と、包み込む慈愛の光。時空を超え女たちの命を描ききる。泉鏡花文学賞受賞の傑作短篇集。連続ドラマ原作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
429
8つの短篇から構成。いずれも広義のホラー小説。角田光代さんの作品はそんなに読んではいないけれど、彼女がこれほどのホラーの名手だったとは。人間の深層に潜む感情を実に巧みに掘り起こしてゆく。ホラーとはいっても霊界だとか、死後の世界といった単純なものでは全くない。ここに見られるのは、人間の生が生まれもって本質的に抱えている根源的な震えといったものが紡がれていく物語である。読者によって分かれるだろうが、私には怖さという点では「闇の梯子」が一番おぞましくも怖かったが、他のいずれをとっても超一級のホラーを保証する。2018/03/05
ミカママ
271
読みながら、何度も既読感を感じつつ。ググってみたらWOWOWでドラマ化されたようなので、それを観たのかな?角田さんがこういう小説を描いたことに驚き。単なるホラーと括って欲しくない、人間の心の真っ暗闇を覗き込むような短編集。【注意】閉所・暗所恐怖症の方は、絶対に読んではいけません。2016/08/25
さてさて
171
『いのち』とはひとり生まれ、死んでいくという単純なものでなく、前世や来世との繋がりの中に存在するもの、そういった精神世界が角田さんらしい独特な雰囲気感の中で描かれる、まさに異界を感じる物語。『押し入れの中の薄暗い感じは日本人の原風景のひとつ』と語る角田さんが描く八つの短編には、日本ならではの『闇』が絶妙な温度感で描かれていました。衝撃的なその内容が心を鷲掴みにして離さない八つの作品。そんな八つの作品が共鳴し合い、溶け合い、そして時空を超えた異界へと読者を誘う、そんな独特な雰囲気満載の個性溢れる作品でした。2021/02/13
yoshida
138
幻想的な短編集。角田光代さんの作品では珍しいホラー。母と幼子を描いた作品が多かった。私的には「道理」に最も圧倒された。別れた女性に連絡を取り再会する主人公。徐々に狂う女性のメールや言葉に恐怖する。結婚生活や会社での立場も崩壊する中、最後の謎の宗教の異常な祈りにカタルシスを感じる。「闇の梯子」での屋根裏の怪。妻だけでなく、主人公も発する謎の経に戦く。「かなたの子」で泉鏡花文学賞を受賞。この土俗的な幻想さに受賞も納得。「道理」が強烈で再読したいが、手放したい気持ちも残る。それだけの引力、磁力がある短編集。2020/08/23
ケイ
124
怖さは罪悪感からくるのかも知れませんね、と角田さんに確認したくなる。後ろめたくて仕方ないことをしてしまったら…、ふり返って見ることは怖くてもやはり確認せずにはおれない不安な気持ち。意識せずにしたことが人を傷つけたと知った時に感じる不穏さ。ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返したら許してもらえるのか。答えがないから余計に怖さが増す。角田さんの黒くて嫌なベトっとした水の中に引き込まれそうだが、赦しあるいは救いの光を闇の中から少し投げてくれているようにも思う。2023/05/13