内容説明
スマートとはいえない風貌に「鈍牛」「アーウー」と渾名された訥弁。だが遺した言葉は「環太平洋連帯」「文化の時代」「地域の自主性」等、21世紀の日本を見通していた。青年期から、大蔵官僚として戦後日本の復興に尽くした壮年期、総理大臣の座につくも権力闘争の波に翻弄され壮絶な最期を遂げるまでを描いた長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
47
どうやら私は大平正芳という人物を誤解していたようだ。彼がこれほどの知性と洞察力と政治哲学を持つ秀でた政治家だと知らなかったのだ。60年代、70年代の我が国政治の重要局面でこれほど影響力を持った人物であったとは驚きである。私は何も知らず、何も見えていなかった。恥ずかしい限りだ。――権力はそれが奉仕する目的に必要な限りその存在が許される―― 大平氏が書きとめたこの言葉は権力者たる者の自戒をこめたものだろうが、同時に政治家として非難をおそれず権力を行使し良い結果に結びつける責任があるという覚悟でもあるのだろう。2013/02/26
ぐうぐう
24
大平正芳は、日本の政治家の中で、思想を持っていた稀有な人だった。その思想を育てたのは、貧しい少年時代の経験と、キリスト教との出会い。しかし大平にとってキリスト教との出会いは、単なる救いではなかった。悩みを神に丸投げするのではなく、神と対峙することで、大平は逆に疑問を抱くのだ。その疑問こそが、大平の思想を育て、人間として、そして政治家として、彼を太く、大きくしていく。権力闘争渦巻く自民党の中にあって、田中角栄との親密さも手伝い、マスコミは大平にも権力欲というレッテルを簡単に貼っていく。(つづく)2013/10/23
高橋 橘苑
19
棺を蓋いて事定まるというが、大平という人ほど、近年の政治家で死後の評価を高めた人はいないのではないだろうか。本書は、香川県和田村の中農の家に生まれ、苦学して大蔵官僚から政治家・総理大臣となった、大平の生涯を愛情を込めて描いた伝記作品である。70年代を80年代バブルの助走期間と強引に仮定したら、一体70年代の指導者は何を考えていたのか。という前提が頭から離れない自分は、もう少し採点を甘くした方が良いだろうと考え直す作品となった。大平はゆっくりとでも着実に、現在ある重さに向き合う姿勢を持った政治家であった。2019/03/28
S.Mori
16
総理大臣を務めた大平正芳の伝記です。今の自民党に呆れかえってもっとましな政治家はいなかったのかと調べていったときに、行きついたのが大平正芳でした。大平の学生時代から始まり、権力闘争で命を落としたところで小説が終わります。こんな本を読むと、昔の政治家は少なくとも理念を持って活動していた頃が分かります。大平正芳の理念は、アメリカに追従ばかりしないで国際社会の中での日本の立ち位置を明確にすること、中央集権体制を是正すること、財政の健全化などです。自分達の権力欲を満たすのではなく→2020/05/23
イノ
12
第68、69代内閣総理大臣の生涯の物語。 政治家らしからぬ言動や行動が氏の魅力であり 特徴なのか。 本で内側からネットで外側から保管。 以外と読みやすかった。2017/09/10