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内容説明
「万葉集にたどりついたとき、古い日本語というよりも、とても新しい文学に出会ったという不思議な感じがした」英語を母語としながら、日本語作家として現代文学をリードする作家の感性が、英語という鏡に古代日本語の新しい姿を映し出す。
全米図書賞を受賞した名訳から選りすぐった約五〇首の対訳に、作家独自のエッセイを付す。
目次
序 天皇というアイデンティティ
1 ちいさな「くに」の雄大な想像力
2 イメージの醍醐味、それは「映像」に近い
3 世界第二の都市の、おおらかな「文明」
4 太子の嘆き。日本語の根元的な感情は伝わるのか
5 枕詞は、翻訳ができるのか
6 柿本人麿、世界の古代文学の「最高峰」
7 loveとは違った、恋の表現力
8 千三百年の比喩
9 山上憶良、絶叫の挽歌
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
76
あの万葉集の世界が翻訳などできるものかという思い…と同時に、英語に限らず外国語にもその単語の端々に至るまで歴史の重みと思い入れの数々と且つ現に現在進行形で使われつつあり表現の上での苦悩の渦中にあるという厳粛なる現実との遭遇。 日本語、特に詩文を中心とする文学作品が外国語に訳される、一体、それはどんな言語宇宙の位相において足場を持ち新しい命を持って育っていくのか。2006/02/11
kaizen@名古屋de朝活読書会
52
#持統天皇 #短歌 春過ぎて夏来るらし白妙の衣乾したり天の香具山, Spring has passed, and summer seems to have arrived: garments of white cloth hung to dry on heavenly Kagu Hill. #萬葉集 巻一28 #返歌 香具Hillは高貴な山か天の文字季節と生活現した歌2016/09/19
さきん
30
著者の言語に対する感性が鋭い。「愛」と和歌の中で書かれており、日本人はloveとは違うということを無意識に読み解いているが、「切望」という訳を充てて、詩の本質を捉えている。西欧の人はやはり短歌の部分よりも長歌の方が、叙事詩を連想して身近に感じるみたい。英語に訳す行為で逆に万葉集の曖昧なところがはっきり解明されて、楽しく読めた。2020/05/24
かふ
28
もともと『万葉集』は口述の歌であった。だから音の繋がりとかリズムとかが重要なのだ。リービ英雄が英語化することによって英語の論理的な説明文が本来あいまいなる日本語の輪郭を浮かび上がせ視覚的効果を呼び起こす。ソングからポエムにしていく作業。言葉の指示格から時制を英語で明らかにしていくことによって歌が映像詩として立ち上がって来る。間人宿禰大浦の初月(みかつきの歌)。ホメロスの叙事詩にも比される柿本人麻呂の高市皇子に捧げられた199番。2020/05/15
長谷川透
20
本書では『万葉集』を英語に翻訳すること、あるいは、翻訳されたあとの英語表現を学ぶこと以上の収穫を得ることができる。それは、第一に、日本語の特異性の再認識であり、可能性である。そして、第二に、万葉の言葉の多様性と、世界文学へと通じる普遍性である。また、構成も秀逸であり、最終章では、大陸からの移民という説がある山上憶良を扱っている点が興味深い。彼は大和言葉を学び、自らもその文化の発展に貢献した。彼と同じ境遇にあるリービ英雄氏が感慨深くこの章を書いたことが察せられる。2012/08/17