内容説明
無事是貴人――何事も無いのが最上の人生。この言葉を信条としながらも、頼まれたらどんな難事も引き受け取り組んだ実業家・石坂泰三。第一生命を日本有数の保険会社にし、労働争議で危機を迎えた戦後の東芝を立て直し、経団連会長として日本経済の復興を任され、国家事業となった大阪万国博覧会を成功に導く。まるで流れのままに身をゆだねるような人生を歩みながら、一方で、どんな権力者にもおもねらず、あくまで自由競争を旨としたその経営哲学を、城山三郎が描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ジェンダー
55
不思議と最近こういった方には出会えないだろうなぁと思う。しかもここまで自分のやりたい事をやろうとせず、頼まれたというか、流れるままに仕事をする。そつ行った人をなかなかいないと思う。勉強熱心で死ぬまで読書を続け、尚且つ、書や陶芸、詩を読むと多趣味である意味自分の行きたいように生きてきた人生だったとように思う。口では言わないけれど寂しがりやだったからこそまっすぐ家に帰るし、初めはやりたくないと断るけれど、頼まれたからやるっというような言い方をする。でも頼まれたらきっちりする。何か憎めない人である。2014/07/17
さきん
31
東芝の社長として知っていたが、その前に第一生命の経営に長く関わっていたことは知らなかった。今の東芝を見たらどう思うだろうか。息子も日銀に勤め、知的で熱い議論を戦わす親子というのは羨ましい。サラリーマンながら大会社のトップに何度もなり、経済界、産業界団体のトップをも務める人生は凄いと思った。今や経済界の政治への影響力は絶大だが、そのような状況を作り出した経営者の一人ではないかと思う。2017/02/21
あきあかね
29
表題の「もう、きみには頼まない」という言葉。時の大蔵大臣などでも、真摯に向き合おうとしない相手に対しては、気骨のひと、石坂泰三はそう言い放った。 石坂は第一生命や東芝のトップを経て経団連会長となり財界総理とも呼ばれたが、常に順風満帆であったわけではなかった。戦時中息子をマニラで失い、日比谷の第一生命ビルは、日本陸軍、後に連合国軍に接収された。そうした苦境にあっても、悲観することはなく、常に達観する。 戦後、東芝の立て直しのために社長になり、逃げ隠れせずに労働組合とがっぷり四つで話し合う姿、⇒2020/10/31
まつうら
27
最近は日本航空の再建に乗り出した稲盛和夫くらいしか聞かないが、この時代は60歳を過ぎていながら請われて難役を引き受けるという人が多かったように思う。本作の石坂泰三がそうだし、石田禮介や松永安左エ門も、日本経済や社会全体のことを憂い、出馬している。 しかし、社会が必要としていたのだとしても、東芝再建に始まって、財界総理、万博会長まで務めるのは、さすがに働き過ぎだ。「老人は横着に構えて憎まれよ」と言ったらしいが、石坂自身もこういう覚悟があったのだろうか?
シュラフ
20
経団連2代目会長・石坂泰三を描く。逓信省⇒第一生命社長⇒東芝社長⇒経団連会長、という華々しい経歴。戦中は軍部、敗戦後は労組、経団連会長時代は政治家、に対して正論をもって対する姿に明治の気骨をみる。正直、経済人の一代記と思うと面白くはないが、戦後の日本経済の裏面史として読めば面白い。戦後 共産党系の戦闘的な労組により東芝は揺さぶられて会社存続の危機にまで至ったこと、そしてそれを救ったのが朝鮮戦争による特需であったこと、など教科書でもよく出てくる話だが、小説として読むと頭にストンと落ちてくる。2014/06/01