内容説明
精緻玲瓏の文体で描きつくし、絶賛された六つの作品。この作家長年の旅と探求がもたらした、深沈たる一滴、また一滴。古美術にふさわしいヴィンテージワインを前にして、作家の脳裡をかすめる映像は鮮明、濃厚ながら瞬時に茫漠とした虚無へと変貌する。作家の体内で熟成された、食、阿片、釣魚など、官能の諸相、その豊饒から悲惨まで、散文表現の頂点ともいうべき成果がこの名短篇小説集である。川端康成文学賞を受賞した「玉、砕ける」を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
106
映画「ソウル・オブ・ワイン」でロマネ・コンティのワイン造りを知り、開高健の「ロマネ・コンティ・一九三五年Jを読んだ。コート・ドールでは西暦紀元のはじまりの頃からぶどう酒を作っていて、2000年近く植えかけ、さしかえ、つぎかえしてひたすらぶどうだけを作ってきたとあったが、映画と重なって読めた。映画で、1945年ものを日本人が味わっていたシーンがあるが、第二次世界大戦が終わるその年はワインの当たり年だったらしい。ナチスの将軍は酒のわかる男だったらしく、ロマネ・コンティには指一本つけず帰っていったそうです。2022/11/20
ehirano1
90
「虚無のなかの充溢」の世界観が味わえる作品でした。しかし私にはその世界観を十分に味わうには至らず、まだまだ読書のレベルを上げる必要性を感じました。2017/02/13
わたなべよしお
16
開高健。夢中になったのは高校の時だったか。四十数年ぶりに読むと、茫漠、混沌、あまりにも濃密で多様なイメージを喚起させる文体に、再び読むには歳を取りすぎたか、と諦めかけた。力尽きたと思えば寝て、目が覚めると、また挑む。すると、パワーに満ちた開高健ワールドにまだ少しは入り込めることに気づく。酒、料理、性、そして阿片。開高健はただ、生を謳歌しようとしただけなのだ。今はそれが羨ましい。2022/03/27
Shimejismile
5
残虐な逆説。残虐であればあるほどそれは美しい逆説となる、というこれも逆説。美文だが飾文ではない。清濁併せ飲む巨大な生物の胃袋のような本。面白かったです。2011/06/11
ウテオンマ
4
あまり再読はしない方ですが、この短編集は時折取り出して読んじゃいそう。6つの中では「渚にて」が好き。海辺の奇人のお話。主人公の得意な【混合率の朦朧とした話】とか、こういう表現にいちいちツボって手帳に書き留めたくなるw 小説といっても、つい開高氏のルポルタージュ?と読んでしまいます。2013/12/27