内容説明
和服にパラソルをさして、日本から母は帰って来た。貧しいなかをおおらかに生きた母の生涯を清冽な文体で描く鎮魂の譜。ひろく共感を呼んだ芥川賞受賞作品。この表題作と表裏をなす「人面の大岩」は、喜怒哀楽ははげしかったがきわめて平凡な人生を送った父の肖像を感動的に綴った。ほか、在日朝鮮人の哀切な魂の唄を歌い上げ、著者の文学的基点を示す珠玉の短篇「半チョッパリ」「長寿島」「奇蹟の日」「水汲む幼児」の四篇を収録する名品集である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
大粒まろん
5
複雑な思いを含んでいるのに読みやすく、物語としては面白いと思った。2023/03/17
たこらった
2
表題作は母との距離。9ツという絶妙さ。死に対する実感のなさ(の回想)を散文として、抑制された実感として叙述するにはどれ程の沈黙の深さが必要なのか、わたしなどには到底思い及ばない。血の繋がりのない祖母の身世打鈴(シンセタリョン)がこうして文字となって若い母に川を渡らせている。ケレンとは故国異国関係なくこのように美しいものなのだ。幻の光源である土色の言葉の一つひとつが煉瓦の重みを失うことなく訥々と手積みされた小さな家の見事な堅牢さ。「人面の大岩」は飄逸の服の下に不逞な肉体がある。坑道の光の微かさ、温さ、体臭。2025/03/26
メガネねこ
0
★★★☆☆第66回芥川賞受賞作品。筆者自身が在日朝鮮人であり、戦後樺太からの引き揚げ組であったことから、本作品が私小説の要素が濃いことが伺える。若くして故郷をあとに日本最北端辺境の地で、健気に生き若くして死んだ母について三男の主人公が回想する。自分と母の関係、父と母の関係、母の生い立ちが客観性を持った距離感で語られる。その冷静さが母の生き様の悲哀を強調している。2012/08/12
tabine_sora
0
父母を追慕する2編は全体が美しくまたおかしみのある風景に彩られていて印象深い。 一転、「半チョッパリ」は、民族意識やそれに基づく党派性、そして家族の狭間で違和感に苦悩しながらも祖国を求める、一抹の稚さがありつつしかし誠実な青年の物語――「不完全な人間にとって、信じられるのは人間が欠陥を持っていながらも、もしかして世の中に尽すことができるのではないか、ということである。当然のことながら、僕は人間とはそのようなものと考えたので、完全を信じ、そのスタイルを装う人々の姿は僕の目には多くの偽善さえ感じさせた」2025/01/31
ジャッキー
0
ご逝去のニュースで初めて李恢成さんとその著作を知る。表題作はじめ全作品素晴らしかった。私小説のようでもあり、語り手である少年や青年の言葉は小説とは思えぬほど生々しく力のある言葉ばかりだった。韓国文学のような言葉の繊細さと強さがある印象を受けた。例えや比喩表現が巧みで美しく、でもさらりと随所に書かれていて、1文が短くリズムが良く、それが全体の重すぎない空気をつくっているようだった。オモニやアボジ、祖国のことを日本語で書く著者の気持ちはいかばかりか終始考えてしまった。今ようやくオモニに会えたのですね。2025/01/18




