出版社内容情報
【どうしてこんなことを思いつけるのだろう。】
驚嘆しつつ、圧倒されつつ、混乱しながら納得してしまう。
そこに真実が宿っている気がしてならない。
(東 直子)
[自選短歌五首]
「ハープとはゆめのほとり鳥の化身です」余命二ヶ月の館長は言う
《非常口》の緑のヒトは清潔なきっとわたしの運命の人
舫(もや)われた二艘の舟として生きるきみの存在がわたしの浮力
ドアスコープの魚眼レンズを覗いたら一滴(ひとしずく)のこの世が見えた
春を練りシナモンロールに焼き上げる仕方ないことを仕方なく思う
九螺 ささら[クラ ササラ]
著・文・その他
目次
気配、またはあの世の手触り
シナモンロールという思想
舟と浮力と
フェルマータの意味は「バス停」
256日間の共同生活
ゆめとげんじつの重なった場所にある街のこと
宇宙へのアクセスとしての眠り
春先の17ヘクトパスカルの気圧
著者等紹介
九螺ささら[クラササラ]
神奈川県生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒業。2009年春より独学で短歌を作り始める。2010年、短歌研究新人賞次席。2014年より新聞歌壇への投稿を始める。2018年6月に初の著書『神様の住所』(朝日出版社)を上梓(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たーぼー
54
8月に出た新鋭短歌本。最近はBL短歌モノまであるし、SNSイザコザ話などは恰好のネタになるんだろう。そこに一切触れないのが潔い。この著者、通信機器がガラケーのみというから、さもありなん。自然、人間観察、に多く注がれた客観的視点には大いに好感が持てるし、宇宙への関心の数々はリアリズムと寓意性を併せ持ち、興味のそそるところだ。『土星は水に浮くんだってね』。あれは本当の話なんだろうか?色々考えさせられる。ふと自分の頭をよぎる現実と幻の交差する瞬間。誰かが短い言葉で代弁してくれた時、ちょっと幸せな気持ちになれる。2018/09/08
ぐうぐう
35
「感性」って、すごく便利な言葉だと思う。あるいは「世界観」って言葉も、そう。新しい才能、未知なる作品に出会った場合、どう新しいのか言葉にできないとき、「感性がすごい」とか「世界観が斬新」とかって表現で誤魔化すことができるから。九螺ささらの歌集『ゆめのほとり鳥』を読み終えて、なんて感想を書けばいいのか途方に暮れながら、そんなことをふと思ったのだ。例えば、「あくびした人から順に西方の浄土のような睡蓮になる」だとか「鳥避けのCD揺れる銀河色 四億年前の記憶のごとく」とか読むと、(つづく)2019/08/26
ゆみ
25
「ほかほかの駱駝」「縦書きの樅の木」「約束の薬草」 東直子さんのあとがきにある『スーパー言葉派』に納得。 楽しんだ、私は好きだな。2019/09/04
おはぎ
15
不思議で、意味が取れない歌がけっこうな数あった…がそれはそれでいいのかもしれない。そういうものとして、心にしまっておこうと思う。刺激的すぎない程度に突飛な発想の歌が面白かった。「引き出しを開けるとばあばが一生をかけて集めたこの世の袋」「『とんでもない、とんでもない』が口癖の彼女のピアスの穴は12個」「あの人が朝食のパンにつけるバターがずっとなめらかでありますように」2023/01/24
あや
14
忘れもしない大雨の日。それは八重洲ブックセンターの創業40周年の日だったと思う。私はポイント8倍ほしさに会社の帰りに購入した本。東直子さんが監修されている。個性のあるモチーフ。「ゆめのほとり鳥」というタイトルから喚起されるイメージとはまた違った歌群だったけれど、充分に喚起されたイメージよりも繊細で素朴で硬質な世界だった。2021/09/30