内容説明
デビュー作『風の歌を聴け』、そして『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェイの森』。初期三作品の構造とその相互の絡み合いから見えてくるものとは?村上作品に現れる時間・空間・数値に着目し、あらゆる「言葉」が「音」に洗いだされてゆく過程を丹念に検証したユニークな労作。
目次
第1章 『風の歌を聴け』(書くことへの絶望と小説の基本構造;断章23の時間設定と70年夏の物語の時間枠 ほか)
第2章 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(「洗いだし」と「新しい秩序」の関係;「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」の時間設定 ほか)
第3章 『ノルウェイの森』「ドラマ1」(「ノルウェイの森」が呼び寄せる言葉の再生;「ひっくりかえし」としての『ノルウェイの森』 ほか)
第4章 『ノルウェイの森』「ドラマ2」(「緑」との出会いと新しいドラマの始まり;「緑」による新しい秩序の導入の方法 ほか)
著者等紹介
プレドヴィッチ,イェレナ[プレドヴィッチ,イェレナ] [Predovic,Jelena]
1968年ベオグラード(セルビア)生まれ。1993年ベオグラード大学言語学部英語学科卒。1994年ベオグラード大学言語学部日本語学科卒。2003年一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。2010年一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程修了、博士(学術)。現在、翻訳、日本文学研究に専念(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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田中峰和
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本書はセルビア生まれの留学生が一橋大学で学位を取得した博士論文である。村上春樹の初期三作品の構造から見えてくるものに着目。村上作品に現れる時間・空間・数値を見据え、図式化した点がユニークだ。作品内で表面的、連続的に並べられた数値と時間をえり分け、図表の中に組み込む作業によって作家の意図を読み解こうとする。「ノルウェイの森」の図では、中央線での移動時間や位置関係、4回の性交、4つの言葉、楽曲の選定など数字と音楽が図解処理される。文学的発想に拘らないおかげで、理系研究のように作品構造の図式化に至ったのだろう。2017/03/24