内容説明
私たちはなぜ、感情に支配されてしまうのか。多様なコミュニケーションツールがあまねく浸透したポストメディア社会。そこでは、時として真偽では測れない「情報」によって、社会全体はあらぬ方向へ駆動されていく。SNSなどのメディア・コミュニケーションの状況から、領土問題やオリンピックなどの政治問題まで、私たちの判断や思考を揺さぶる情動の問題系に、最新のメディア理論で挑む。
目次
情動化する社会を読み解くために
第1部(デジタルメディア時代における言論空間―理論的探求の対象としての制御、情動、時間;「事態の潜勢態」をめぐって―ホワイトヘッドの「抱握」概念から;知的感受と情動の強度―「感受」の公共的性格;情動と社会秩序の宙づり―ホワイトヘッドとパースの社会学的射程;情動の政治―フクシマ、領土、オリンピック)
第2部(社会の地すべり的な転位―コミュニケーション地平の変容と政治的情動;ポストメディア時代のコミュニケーション・モード―SNSは何を変えつつあるのか?;オーディエンス概念からの離陸―群衆、マルチチュード、移動経験の理論に向けて)
ポストメディア時代の行方と展望
著者等紹介
伊藤守[イトウマモル]
1954年、山形県生まれ。早稲田大学教育・総合科学学術院教授。専門は社会学、メディア・文化研究、人文社会情報学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たばかる
19
情動とその作用としてのコミュニケーションや政治言説をホワイトヘッドや記号論を流用しつつ社会学的な分析を目指す。現在の情報社会では情報の意味内容やその理解よりも情報の流通循環そのものを加速するような自己目的化が行われていることは心理・経済・政治分野でも議論になっている。本書ではここに記号論をパースまでさかのぼり、記号から論理的な思考に至る前段階の性質として、記号によって触発される原初的なレベルでの反応に注目する。これはあくまで身体的な反応であり、思考すなわち情報の精査を孕まない、要するに語感だとかで得も知⇒2022/01/28
またの名
18
これは興味深い議論だと認知的に理解する一方「この教授はルーマンが好きで話してるな」「いつもより聞いて欲しくて話が熱心」という信念や欲求の次元、つまり情動の水準でも受け止めてる聴き手。散漫にあるいは爆発的に拡散されていく呟きや動画データが刻々と情動や雰囲気を社会規模で形成する時代に、ジェイムズ、ホワイトヘッド、ドゥルーズとガタリ等を用いて記号論的分析ではもはや捉えられない実態に近づく。本書自身が言及する通りコンテンツがなんだろうと資本の循環を重視する巨大ウェブ企業に先を越される領域で、学はどこまで行けるか。2018/09/12
しゅん
18
「感情とは情動の持続的契機からなる変様の一つの帰結である」というように、本書は「感情」と「情動」を明確に分けているのがポイントだろう。前半は社会における情動の理論的研究、後半は政治やコミュニケーションの場における実践的分析。前半部を理解するには知識と読みの細かさを必要とする。後半の石原慎太郎の尖閣所有発言に関する分析などおもしろく読んだが、前半とのつながりが認識できればもっとおもしろいに違いない。現代の社会について地道に考察を重ねていて、読み手にとってもしぶとく読むにふさわしい一冊だと感じる。2017/11/29
Zensohya
5
返却日のため斜め読み。手紙が届かないことができない社会、署名がパスワードな世界、情報循環が自己超越≒自律する(正確には自己超越過程をテクノロジーがジャックする)社会において、視聴覚等の高度な解析から情動がジャックされる(情動は聴覚的無媒介性の受動であり、視覚的記号的能動分節を経て事後的総括的に感情が構成される)。Twitterの「いいね」は他者からの「承認」といった蒼古的意味合いはなくもっとフラットな感覚であること、LINEという黙話空間=無関心さの社会技術的実現など。縁があればまた読みたい。2022/04/20
GASHOW
5
情報化社会の考察だが、本を通じて混沌としている。難しい問題で答えが無い感じ。2017/11/06