内容説明
和辻哲郎門下生としてカント哲学に傾倒した絵鳩毅にとって、戦争とはいかなるものだったのか。シベリアの極限状況はどのように俘虜の心を壊していったのか。そして中国撫順戦犯管理所にて、戦犯はなぜ人間性を取りもどすことができたのか―。
目次
第1章 皇軍兵士の四年 第一部 兵営記
第2章 皇軍兵士の四年 第二部 戦塵記
第3章 シベリア抑留の五年 強制労働、慢性飢餓、極寒、人間不信の世界
第4章 撫順戦犯管理所の六年 監獄が自己改造の学校であった
著者等紹介
絵鳩毅[エバトツヨシ]
1913年鳥取県に生まれる。1938年東京帝国大学文学部卒業後、文部省勤務。1939年山梨県女子師範学校、上田高等女学校教員。1941年臨時召集で東部第64部隊入隊。1942年北支那方面軍第12軍第59師団第54旅団第111大隊機関銃中隊に転属(陸軍軍曹・分隊長)。敗戦後シベリアに捕虜として5年間、戦犯として中国に6年間抑留。1956年起訴免除。帰国後は、高等学校教員、郵便局長を経て、中国帰還者連絡会常任委員長などを歴任。2015年1月没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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BLACK無糖好き
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元陸軍兵士の回想録。皇軍兵士として八年、シベリア抑留五年、撫順戦犯管理所六年、1956年帰国。生前に自費出版した自叙伝がこのほど花伝社によって編集出版された。著者は出征前、東京帝国大学で「カント倫理学」を研究しており、人間尊厳の思想が随所に見られる。とりわけシベリア抑留時にソ連の政治部員から密告を強要された際に、カントの「実践理性批判」に従い、自分の帰国の望みを断ってでも仲間の密告を拒否した件は大変印象に残った。◇自分は哲学にはてんで疎いが、土壇場で踏み止まれる倫理観だけは持っていたい。2017/12/17