内容説明
一九世紀末から二〇世紀初頭のヴィーンを舞台に、装飾がそこで担った意味の分析を通じて、近代建築のエロティシズムを考察した意欲作。
目次
第1章 オーストリアの終焉―聖なる春のヴィーン
第2章 建築家のダンディズム―アドルフ・ロース1
第3章 反フェミニストの遺言―オットー・ヴァイニンガー
第4章 装飾と犯罪―アドルフ・ロース2
第5章 装飾としてのペニス―ジークムント・フロイト
第6章 両性具有の夢―アドルフ・ロース3
第7章 恐るべき子供たち1―オスカー・ココシュカ
第8章 恐るべき子供たち2―ルートヴィッヒ・ヴィトゲンシュタイン
著者等紹介
田中純[タナカジュン]
1960年生まれ。東京大学大学院教授。表象文化論・西洋思想史。著書に『アビ・ヴァールブルク 記憶の迷宮』(青土社、サントリー学芸賞)、『政治の美学』(東京大学出版会、毎日出版文化賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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misui
10
『冥府の建築家』に続いて手に取った。エロティシズムは論理にこそ宿るという観点から、1900年頃のヴィーンで活躍した著名人の思想を横断的に見る。建築家アドルフ・ロースを中心に、建築に現れた装飾、その背後に働く論理が、フロイト、カフカ、ヴィトゲンシュタイン…と次々に連関していく。ともすれば飛躍にもなりそうなアクロバティックな論の運びには知的に興奮させられるし、先に読んだ『冥府』を思わせるところも多々あって(というか出版の順番は逆なのだけど)、非常に楽しいひと時を過ごした。しばらく著者の思考を追ってみたい。2013/02/13
かいこ
4
ヴィーンにおける建築もとい装飾論。めちゃくちゃ面白かったので建築学と都市論を掘り下げてみようと思う。2018/07/08
トマス
3
建築家アドルフ・ロースの「装飾と犯罪」を入口に、1900年前後のウィーンの近代建築と装飾論の連関を考察する。建築の研究というよりも、思想家たちの論理の読み解きが中心。無装飾のデザインが主流にも思える現代から見ると、装飾の転換点の1つとして興味深い。2020/03/22
ネムル
3
世紀末ヴィーンの装飾の転換が建築とモードの点から語られている。そして、一番興味深いのはやはりアドルフ・ロースの建築論か。見られる外側の対象としての装飾論が、住まわれる内部の空間論とリンクされるにおいて、「外部をともなわない内部は存在しない」という困難に対して内と外とに差異・分裂を設けることで、存在しない・不可視の感覚喚起的な空間を作ろうとしたというロース論が非常に興味深い。2013/05/02
しずかな午後
2
本書のテーマは20世紀末、いわゆる世紀末転換期のヴィーンの美術・建築思想である。目次には、クリムト、アドルフ・ロース、フロイト、ココシュカ、ヴィトゲンシュタインなどの錚々たる顔ぶれが並ぶ。取り分け、「建築家は犯罪者だ」と繰り返しながら、装飾を取り除いた建築を志向した、アドルフ・ロースの思想に大きく分量が割かれている。建築とエロティシズムというテーマと、世紀末ヴィーンの群像劇が楽しく読めたが、正直、内容は難解で、目が滑ってしまうことが多かった。もっと勉強したい。2022/04/20