出版社内容情報
少年は死んだ男の娘を連れて旅に出た。生を奪われた無数の子どもたちに想いを馳せ描く冒険譚。父と墓地に暮らす少年は、ある夜、男女の心中を目撃した。数年後、少年は死んだ男の娘を連れて列車の旅に出る。二人の眼に映る、敗戦下の日本とは。生を奪われた無数の子どもたちに想いを馳せ描く冒険譚。
単行本未収録「犬と塀について」併録
津島佑子に飛躍をもたらしたのは、
彼女が安吾の作品に見出した
「ひんやりとした、熱い風」である。
それこそが「兄」である。以後、
津島佑子はこの「兄」に連れられて、
オオカミ=遊動民の旅に出たのである。
――柄谷行人「津島佑子とオオカミ」より
笑いオオカミ
犬と塀について
解説 柄谷行人
津島 佑子[ツシマユウコ]
著・文・その他
柄谷 行人[カラタニコウジン]
解説
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ソングライン
14
昭和34年の東京17歳の少年が12歳の少女を誘い、日本各地を巡る鉄道の旅に連れ出します、何の目的地も決めずに。幼い時に少年が目撃した心中事件、その相手の男が少女の父で有名人だったことが二人を結びつける唯一の関係。旅に出た二人は、お互いをジャングル・ブックに登場する狼アケーラと狼に育てられた子供モーグリと呼び合い、次第に信頼を深めていきます。思春期の初めに、妄想する肉欲とは異なる男女の親密感への憧れと晩年の傑作ジャッカ・ドフニに繋がる二人の切ない別れが描かれます。2020/04/09
amanon
5
戦争の混乱の余韻を残す日本各地を放浪する二人の少年少女。そこに戦後史に起こった様々な事件や社会問題を絡め、その中で小さくされた者たちの姿を描き出していく…ここにも作者の実体験が少なからず反映されているが、以前の自伝的要素が強い作品と一線を画しているのは、そのフィクション的要素ばかりではあるまい。そこには自分自身に向けられたところから一歩踏み出して前述の小さくされた者への視点へと拡大していったところに、大きな飛躍が認められる。そして何より、人間の都合で絶滅へと追いやられた狼への眼差しが、切なくて重い。2018/07/24
林克也
1
最後に飯田線だ。これには参りました。18歳まで育った実家。中学、高校と通学に使った飯田線。県外の大学に入り、初めての帰省の際、飯田線に乗って感じた、それまでとは全く違う感情。それから40年以上が経ち、両親がいなくなり空き家となった実家の世話に通うために乗る飯田線。そこで思う諸々の事々。 津島佑子さんの作品、この「笑いオオカミ」から後の作品はすべて読んできたが、この作品は出版後20年にしてようやく読み、最後の最後に飯田線。繰り返しになるが、いやあ参りました。 2020/07/25