出版社内容情報
1980年東京。大学に通うかたわらモデルを続ける由利。彼女の目から日本社会の豊かさとその終焉を見つめた、永遠の名作。
【著者紹介】
1956年、東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。『なんとなく、クリスタル』で80年、文藝賞受賞。主著に『昔みたい』『サースティ』他多数。現在『文藝』で17年ぶりの小説となる『33年後のなんとなく、クリスタル』連載中。
内容説明
大学生でモデルの主人公・由利。バブル経済に沸く直前、一九八〇年の東京を「皮膚感覚」で生きる若い女性たちを描き、八〇年代以降の日本人の精神風土、そして「豊かさ」の終焉までを予見。膨大な「注」に彩られ、精緻で批評的な企みに満ちた、文藝賞受賞作。
著者等紹介
田中康夫[タナカヤスオ]
1956年、東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。『なんとなく、クリスタル』で80年、文藝賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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harass
68
気になり借りる。初読であるが、以前読んだ誰かのエッセイでマルクス主義批評の視点からこの小説の読み方を知り感心していたからだ。80年バブル期のアッパーミドル階級の大学生の東京生活を描く。見開き右が本文で、左は本文にでてくるブランド品や遊び場や洋楽の批評的な大量の注釈。大量の〈商品〉ブランド名で描かれる、なんとなくという気分の登場人間は空虚でしかない。華やかで当時の時代の先端だったのかもしれないが、資本主義社会では、人間がきらびやかな商品の従属物でしかないことを明示している恐るべき実験小説。2017/05/27
ヨミー
54
「33年後のなんとなく、クリスタル」が出てなんとかく読みたくなり、まずはこちらからということで読んだ。話題になっていたが全く手に取ろうともしなかった。40ページ程の大量の注を見ながらは大変でしたが、これはなかなか良かった。そんなに入り込めないけど、33年後は、気になります。2016/11/29
活字の旅遊人
43
1980年の発表。十数年後に僕は大学生になった。イメージしていた東京の大学生の姿がここにあると思い読んでみたが、半分も読めず。当時の若者文化が、僕には縁遠過ぎた。本書は見開き半分が注釈のようになっていて、いかにも軽薄そうな単語が並ぶ。このスタイルは今見ても新しいが、当時は全く馴染めなかった。更に年を重ね、著者がまた自治体首長に立候補するというので読んでみた。実はその注釈、著者の声なんですね。更に、最後に人口のデータを持ってきて、なるほど実は深い。この人確かに政治に向かうなあ。「33年後の…」も読むか?2021/08/13
かみぶくろ
34
切り口がテクニカル。登場人物というより小説の内容自体がどこまでも空疎なのもきっと意図的なんですよね。ワンテーマを伝えるという意味では大成功だと思う。なんとなくの記号消費で生きていく価値観は現在も当たり前のように大きな位置を占めていて、小説でもちょくちょく見るテーマなんで目新しさは感じないが、80年当時の問題提起としては斬新だったのだろう。最近発表されたらしき続編にとても興味がある。ネットの影響でとりとめなく多様化複雑化している現代日本を、消費社会の文脈でどのように描くのだろうか。2014/11/08
よこしま
32
答えは最後にある。◆本文となんら関係のないようにも見える、80年当時の合計特殊出世ならびに老年人口比率の予想。◆発行当時、私はまだ小学生。彼の名はメディアに多く出てきた分、嫌でも知る訳で。なぜ、『33年後』が出版されたか?冒頭でお分かりでしょう。◆頁右はアイデンティティを持つこともない、当時の学生らの生き方。左は注釈と見えそうで実は彼自身の嫌味を混ぜた時代の魅せ方。これをトリックに仕掛を置く。◆社会が異様な繁栄に向かう中、悪夢に向かっているんだよ、という彼の先見の明となる警告が最後に飛んでくる訳です。2015/04/28