出版社内容情報
大江健三郎という作家の全体を、「犠牲」のテーマから一貫して解釈しえた画期的研究。イメージ分析を主軸として、様々な領域のテクストからの影響、同時代的な社会状況、故郷の歴史・空間性などを踏まえて、大江作品における死生観を詳細に描き出す。【第12回東京大学南原繁記念出版賞受賞作】
内容説明
第12回東京大学南原繁記念出版賞受賞作。殺された獣たちの亡霊、超越的存在としての樹木―大江の作品世界に満ちる独特なイメージ群を紐解き、「死生観」という切り口から、作家の全体像に迫る。
目次
序論 「死生観」から大江を読む
第1章 「壊す人」の多面性―『同時代ゲーム』(『同時代ゲーム』の背景;「犬ほどの大きさのもの」;「暗い巨人」への帰依;「森」という神秘のトポス)
第2部 犠牲獣の亡霊(皮を剥がれた獣たち;「御霊」を生むまなざし;隠された「生首」;「後期の仕事(レイト・ワーク)」における亡霊との対話)
第3部 「総体」をめぐる想像力(自己犠牲と救済;救済を担う大樹;聖なる窪地と亡霊たち;「神」なき「祈り」の場)
結論 「犠牲の森」の変容
著者等紹介
菊間晴子[キクマハルコ]
1991年生まれ。現在、東京大学大学院人文社会系研究科特任研究員。東京大学大学院総合文化研究科教務補佐員。青山学院大学・昭和女子大学・明治学院大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かふ
23
図書館本なのでそろそろまとめて返却しないと。犠牲というのは大江健三郎が生きた戦後世代の学生運動とか三島由紀夫の自決とかそういう歴史を動物をメタファーとして、中心の物語には回収されない辺境の物語として四国の森の鎮魂としての物語が描かれたのだと思う。それは大きな物語に回収されてはならない個人的体験であり、そして「晩年の仕事」での文学の読み直し語り直し繋がっていくのだ。工藤庸子『大江健三郎と「晩年の仕事」』、尾崎真理子『大江健三郎の「義」』の中間ぐらいの批評かな。グノーシス的なエリアーデが参考になるのかな?2024/02/12
トマス
2
『同時代ゲーム』を起点に犠牲と亡霊性、そして魂の総体という軸を設定し、全期間を射程に大江の死生観を丁寧に読み解く。『宙返り』での書き直しが「後期の仕事」への必然的な転換をもたらしたという指摘が特に興味深い。2024/01/27
belier
1
この本は、著者の博士論文に加筆修正を施したものだという。修士課程から約10年にわたった研究の成果らしい。おかげで多くのことが参考になった。この本の主題ではないかもしれないが、最近『宙返り』再読したばかりのため、「テン窪」に関する解説が特にありがたいものだった。現地を調査してのモデルの問題、作品によって描かれ方の違いなど、なるほどと靄が晴れるような感覚だった。主題であろう犠牲についての記述も興味深く読んだ。『同時代ゲーム』等を再読するときにまた参考にせねば。2024/12/30
かんな
0
仕事中にふと考える。生と死の意味。2024/05/11