出版社内容情報
戦後歴史学が批判すべき対象としていた「戦前」の歴史学について、その出発点を1930年代に生まれた新しい歴史学の潮流のなかに見出す。多様な歴史学が興隆するなか、そこで生まれた歴史学研究会と、それを牽引した歴史家たちがたどった戦中・戦後も射程に入れて、現代の歴史学が切りひらく視座を提示する。
内容説明
「戦前」を繰り返さないために。多様な歴史学が興隆し新たな担い手たちが登場した史学史上の転換期だった1930年代―「戦後歴史学」のネガとして忘却され埋もれてきた「戦前歴史学」の実像に迫る。
目次
1 一九三〇年代の歴史学の「刷新」と黎明期の『歴史学研究』
2 「宮崎市定」の誕生―一九三〇年代の軌跡
3 一九三〇年代の歴史系学会と史学史ブーム
4 社会経済史学会の創立と一九三〇年前後の社会経済史研究
5 戦前東洋史学の展開と歴史学研究会の創立者群像
6 歴史学研究会と二つの皇国史観―平泉澄・吉田三郎を中心に
7 両大戦間期フランス歴史学界における危機と刷新―L・フェーヴルの視点から
8 「左派外交史学」の曙光―一九三〇年代日本のマルクス主義史家たち
感想・レビュー
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湯豆腐
1
2022年に90周年を迎えた「歴史学研究会」を中心に1930年代の歴史学界を捉えた史学史の論集。戦後歴史学の対概念として措定されてきた戦前歴史学の内実を見直す意図で、歴史系の幅広い学会から論文を集めている。冒頭の加藤論文は大久保利謙の言葉を引用して「史学の統一へ一歩を進めた」と歴研の設立を高く評価している一方で、宮崎市定を論じた次の井上論文は「会自体が東大内の学問的、あるいは世代間の対立が契機になって生まれ」京大の宮崎とは縁遠いものだったとしているように、歴研へのスタンスに論者のバックボーンが伺われる。2023/11/28