出版社内容情報
『単行本未収録エッセイ集 あの頃』から、「武田泰淳との思い出」「歩く」「食べる」、三つのジャンルのエッセイを厳選。夫亡き後の長い時間のなかでゆっくりと発酵した夫や友人たちへの思い、街を歩き、見たもの、食べたもの、感じたことをそのまま、はっとするような文章で切り取ったエッセイ集。
内容説明
夫・武田泰淳亡きあとの長い時間の中で、ゆっくり発酵させてきた、夫や友人たちとの思い出、日々の暮らしの中で見たものや感じたことなどを、そのまま鮮やかに写し取ったエッセイ。単行本未収録エッセイ集『あの頃』より五十四篇を選び、収録する。
目次
1 思い出―武田泰淳と暮らした日々(武田泰淳『身心快楽』あとがき;椎名さんのこと;卒塔婆小町 ほか)
2 歩く(私の住んでいる町;ギョッとする会話;眼医者へ通う道 ほか)
3 食べる(ばんめし;豆餅;マスカット ほか)
著者等紹介
武田百合子[タケダユリコ]
1925(大正14)年、神奈川県横浜市生まれ。旧制高女卒業。51年、作家の武田泰淳と結婚。取材旅行の運転や口述筆記など、夫の仕事を助けた。77年、夫の没後に発表した『富士日記』により、田村俊子賞を、79年、『犬が星見た―ロシア旅行』で、読売文学賞を受賞。93(平成5)年死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
93
武田百合子さんの未読であったエッセイ集です。武田さんが「らんぼう」という酒場で働いていた時から生前の最近時までの様々な出来事が書かれています。やはりご主人の関係で文豪といわれる人々とのやり取りなどが興味深く語られます。とくに人との別離が多いという気がしました。読んでいて本当に気持ちがゆたかになる気がします。このようなエッセイが少なくなりました。また「富士日記」を再読したくなりました。2023/11/18
佐島楓@入院中
67
武田百合子さんの生前をわたしは存じ上げないけれど、このかたにしかお書きに慣れない、視えないものがあったのだろうことは文章を読めばわかる。やはり夫である泰淳との別れがつらく苦しいものであったことも、文章のあちらこちらににじみ出ている。『富士日記』には早めに挑戦しようと思っているが、時間がどんどん経ってしまうな。2023/04/14
ホークス
32
『富士日記』で有名な武田百合子氏(1925〜93年)のエッセイ集。とても楽しめた。夫である泰淳氏の生前の話も、亡くなった知人達の話も、悲痛さや未練な感じが無い。なのに、親しみと慕う気持ちは伝わる。生来のヤンチャな気質と厳しい現実主義による、クールかつ優しい語り。根底には戦争を挟んだ荒涼とした時代もあるだろう。改めて感じたのは、何ものにも支配されない強い意思。急速に失われゆく自分の若さや街の風情などに、著者は気を惹かれつつ耽溺せず突き放す。他の人には書けないこの文章が大好きだ。2025/10/23
ニケ
12
武田百合子さん。唯一無二のエッセイスト。武田泰淳さんがその才能をたぶん見抜いて生まれた稀有のエッセイスト。この時代の文豪たちも実名で生き生きと描かれる。視点が独特なのだ。なんとも言えないおかしみがある。ドイツ滞在記だって、典型的なよくあるドイツの風景などこれっぽっちも出てこない。サーカスや動物園や浮浪者。食べ物のエッセイの生々しく人間くさいこと。好きだ。2024/02/14
えいこ
12
夫である武田泰淳が亡くなってからのこと、在りし日の思い出などを綴ったエッセイ。「犬が星見た」の頃の自由であけすけな文体はそのままだが、夫や友人たちのことを語るとそこに寂しさや悲しさ、諦念が滲む。古い木造の家が壊されて鉄筋の大きなビルが建つ描写が何度か出てくるが、なくなるものへの郷愁のようなものが、ずっと漂っている。2023/07/01




