内容説明
ぼくはさっき感じたズルズルと愛のようなものに自分が浸っていく気持ちを大事なもののように感じていたのだが、ズルズルがズルズルと一人で勝手に土俵を割っていったような気持ちになった…。前作『プレーンソング』の四人は、いつものように毎日おしゃべりし、そして恋をする。夏の終わりから晩秋までの至福に満ちた日々。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
53
デビュー作「プレーンソング」の続編。30才過ぎの独身が仲間と共同生活(男3女2)するアパート。のち作者自らが言う「自分が唯一書いたセックスの場面」も出てくるが、恋愛小説ではないし、その場面は別の場所である。このアパートは愛の空間とは全く違う。恋愛とはいつまで続くか分らない不安定な状態だから未来はない。この作品で描かれるのは、偶然出会った恋愛ではない居候同士の空間だから、普通は仮初めの束の間の空間の筈だが、作者はそこに未来の空間を見る。「新しい習慣をつくることにしか未来はない」という言葉が心に響く。2014/11/11
いっち
38
前作『プレーンソング』に若干退屈さを感じたが、本書を手に取った。数々の文学賞を受賞し、のちの作家に影響を与えている保坂作品を「退屈」で終わらせたくなかったから。結果的に読んで良かった。内容は前作同様、主人公の2LDKのアパートでの何でもない日常が描かれる。前作と大きく違うのは、主人公の恋愛要素が入っていること。巻末の石川忠司さんの解説が良い。「ただしゃべってダラダラくつろいでいることで性欲が自然と外に放出されている」と書かれており、性欲が放出されることで主人公のアパートに心地よい空間が流れていると感じた。2021/02/21
踊る猫
27
前作『プレーンソング』よりも更にとりとめなく、記述は時に綿密さを目指し時に思弁を連ねる。私は野郎なので、保坂和志が書く女性を遂に女性の立場から読めないという限界がある。だからなのか、ここで展開する「工藤さん」や女子高生たちの描写を女性(いやもっと厳密に言えば「フェミニスト」)が読めばどう考えるのか興味を抱く。裏返せば、もちろんマッチョというわけでもないのだろうが男同士のゆるいホモソーシャルなつながりとそれを慈悲深く見守る女性の織り成す共同性こそが保坂の作品世界なのではないか、と思いそこに魅力と危険を感じる2022/03/15
michel
21
★4.9。『プレーンソング』続編。新たに、工藤さんが登場。しかし、やはり何も起きる訳でもない。ただただ、時間が過ぎる中、そこに”いる”。詳細なレヴューは同様のため、省略。2018/09/16
ぽち
17
普通の小説(普通、の定義やそうでない小説がどのような小説なのか、とかはともかくとして)を読むときにひっかかる箇所はおおむね風景の描写で、それについては保坂さんの後年の著作で述べられているとおりなのだけど(直列を並列に変換することが読者の脳に負担をかける)、この小説の場合は風景のところはわりにすらすらと読める、で、普通の小説、ですらすらと読めるところであるはずの会話、でひっかかってしまう、なーにをいっているのかさっぱりわからないなあ、それは内容、意味が掴めないというのではなくて書かれた会話という文章に2022/01/27