内容説明
十九世紀のヨーロッパに秩序と安定、四十年の平和をもたらせた「勢力均衡」の知恵とは何か―。
目次
1(近代ヨーロッパの勢力均衡)
2(ウィーン会議と「ヨーロッパ」;会議はなぜ踊りつづけたか)
著者等紹介
高坂正堯[コウサカマサタカ]
1934~96。国際政治学者。哲学者・高坂正顕の次男として生まれる。京都大学法学部で国際法学者・田岡良一に師事し、卒業後ハーヴァード大学留学。1963年『中央公論』に「現実主義者の平和論」を発表して論壇に登場する。冷戦時代から共産主義国家には批判的で、現実に即した保守政治評価や国際政治観を表明した。専門は国際政治学、ヨーロッパ外交史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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masabi
14
【概要】ナポレオン戦争後のウィーン体制成立の背景にあった精神を解説する。【感想】ウィーン体制成立にヨーロッパ諸国をまとめた勢力均衡、「ヨーロッパ」という理念、自由主義への恐怖があったと指摘する。政治や社交を同列に語るホイジンガの言う遊びを持った貴族的政治から勝敗の結果だけを追求する事業家的政治への転換期だったと言えそうだ。政治というゲームの過程を楽しむ余裕が消え、ゲームの勝利を追求した挙げ句にゲーム自体が崩壊したのが第一次世界大戦だと敷衍できるだろうか。2020/08/04
MUNEKAZ
12
評判高い一冊だが読むのは初めて。前半はウィーン会議を題材に、メッテルニヒ、タレーラン、カースルレーらの行った「古典外交」の精神を論ずる。「勢力均衡」はもとより、それに絡みつく「ヨーロッパ」という共同体意識など、当時の貴族たちが行ったまさにゲームのような外交術が印象的。そしてその裏にある「革命」への恐怖も生々しく、メッテルニヒらが何を抑えたかったのか(もちろんフランスではない)がよくわかる。また著者がそうした外交に対する憧憬を隠していないのも面白い。外交が一部の教養ある階級の独占物であった時代のお話である。2023/07/15
Kenya
2
ウィーン体制での勢力均衡に基づく外交交渉を詳しく論じている。新しい視点として、正統主義がウィ−ン会議の最初から述べられた訳ではないということがわかった。さらに、ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』の「遊び」の感覚がウィーン会議で生きていたことが非常に興味深い。『会議は踊る。されど進まず。』の意義がわかった。2012/12/14
バルジ
1
19世紀のナポレオン戦争後の秩序形成を外交交渉に焦点を絞って叙述した名著。ウィーン体制が「勢力均衡」と「ヨーロッパ意識」という性質の異なる概念が組み合わさり安定した国際秩序として成立する過程を描く。本書を読むにメッテルニヒやカースルレイ、タレーランらの外交交渉は芸術的ですらある。一口に勢力均衡と行っても全ヨーロッパ的なものから、ドイツ連邦のような地域的なものを含め重層的な秩序であるが、彼らはこれらを大局的かつ繊細に処理し見事に纏め上げる。敗戦国フランスへの勝者の眼差しも近現代とはどこか異なる。2020/08/02
コウヘイ
1
名著。外交を議論の対象としているが、外交以外の政策議論、さらには人間生活全体にも通ずる普遍性のある内容だった。印象的だったのは「勝つという目的だけが重要でじゃなく、ゲームそのものが重要であって初めて、ルールは確固たる座を得る」という一文。勝つ/敗けるという単純な二元論に飛びつくのではなく、その過程自体に価値を見出す「余裕」があって初めて、秩序への道が開かれる(もたらされる保証はない)と解釈した。2020/02/06