内容説明
贈与は人間の営む社会・文化で常に見られるものだが、とりわけ日本は先進諸国の中でも贈答儀礼をよく保存している社会として研究者から注目を集めてきた。その歴史は中世までさかのぼり、同時に、この時代の贈与慣行は世界的にも類を見ない極端に功利的な性質を帯びる。損得の釣り合いを重視し、一年中贈り物が飛び交う中世人の精神を探り、義理や虚礼、賄賂といった負のイメージを纏い続ける贈与の源泉を繙く。
目次
第1章 贈与から税へ(四つの義務;神への贈与;人への贈与)
第2章 贈与の強制力(有徳思想―神々からの解放;「例」の拘束力;「相当」の観念と「礼」の秩序)
第3章 贈与と経済(贈与と商業;贈与と信用;人格性と非人格性の葛藤)
第4章 儀礼のコスモロジー(“気前のよさ”と御物の系譜学;劇場性と外在性;土地・労働・時間)
著者等紹介
桜井英治[サクライエイジ]
1961年茨城県生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。北海道大学助教授を経て、東京大学大学院総合文化研究科准教授。専攻は日本中世史、流通経済史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
112
先日同じ著者の論文集を読んだのですが、この本の方がもう少し「贈与」という観点に焦点を集めて書かれている気がしました。日本の歴史におけるこのような分析というのはあまり類がなく私には興味を持って読むことができました。現在の日本でも贈与がかなり行われているのはこういったことがあるからなのでしょうね。少なくとも先進国にはあまりない気がします。一緒にする食事などは日本よりも多い感じですが。今度は「お土産」についての分析をしていただければという気がします。これも日本特有ですよね。2018/01/08
びす男
42
儀礼に儀礼が重なった末の、究極の形式主義――。人間の生態を見させられるような気分だ。日本の中世に書かれた文献などから、贈与経済の辿った道を探る■「贈り、贈り返される」関係は繰り返され、定着してゆく。税として習った「租庸調」も、その文脈で説明されたのが興味深い。今でこそ「公共財」「再分配」などの抽象論があてがわれているが、税の発祥はもっと実際的な行きがかりがあって当然だ。目からウロコだ■贈与が行き交いすぎて、やがて紙のやりとりになっていく様も面白かった。SFのようでもあるが、人間が持つ真実の一面である。2019/11/05
ころこ
38
数か月前に途中まで一度読んで、よく分からず放置していましたが、今回、読んで考えた推測を書きます。数か月前は、贈与をアジールだと考えていたために、貨幣と対立しない贈与を上手く理解できませんでした。恐らく、贈与と貨幣交換は地続きです。成員が少なく、貨幣が発達していない社会では、貸し借りの履歴は成員の記憶としてある。時間軸が長くなり、成員が増えていくと、個人間で記憶されている履歴から、集団の身体(社会の記憶)に刻む装置である儀礼によって、継続的な関係であれば定日に行うことによって記録されていく(義理)。もっと成2020/04/21
nekozuki
19
モースの『贈与論』における議論を下敷きとした日本の贈与史。"贈与"という表現ではあるが、日本の中世における習慣は現代から見ると非常に奇異に見える。その他の経済体制が想像できないくらいに資本主義経済が浸透している現代から見ると、興味深い世界ではあるし本書の説明のように市場経済の端緒というのも頷ける。2017/07/15
佐島楓
18
日本中世の経済活動という、個人的にはあまり考えたことがなかった事柄に切り込んでいる。面白かったのは、「先例にならう」ことを善しとする、建前や形式を重んじるなど、現代の日本人にもつながるメンタリティーの存在。当時の役職の固有名詞が難しかったですが、歴史好きとして勉強になりました。2012/01/30