内容説明
東京下町、荒川土手下にある小さな共同ビルの一階に店を構える田辺書店。店主のイワさんと孫の稔で切り盛りするごくありふれた古書店だ。しかし、この本屋を舞台に様々な事件が繰り広げられる。平凡なOLが電車の網棚から手にした本に挟まれていた名刺。父親の遺品の中から出てきた数百冊の同じ本。本をきっかけに起こる謎をイワさんと稔が解いていく。ブッキッシュな連作短編集。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zero1
329
宮部作品は心温まるとの評も多いが、解説の大森望も述べているように本書はかなり苦い。荒川土手にある古書店を舞台にした短編集を再読。「六月は名ばかりの月」は女性失踪事件の意外な結末。「黙って逝った」は同じ本を300冊残して死んだ男の謎。「詫びない年月」では幽霊話と戦争。「うそつき喇叭」は虐待。「歪んだ鏡」は拾った「赤ひげ」の文庫での想像と女性の現実。表題作は稔の恋と創作の厳しさ、人の異常さ。イワさんと稔の会話がいかにも宮部節。「模倣犯」など以後の作品につながる部分も見逃せない。初期の宮部は粗いが読ませる。2019/07/21
kaizen@名古屋de朝活読書会
303
古本屋の雇われ店主。手伝いの孫と2人の素人探偵。短編6話。大森望の解説が出色。解説を書く前に、文庫を古本屋で買ってきて、他の解説を読んでから書くという。翻訳家・編集者・書評家ならではの行動。冗談ではないらしいが、近所の古本屋が「たなべ書店」とのこと。場所も西葛西からすぐ。カラオケで宮部みゆきが歌がうまく、その背景に「耳のよさ」があるという。「暗い歌を歌っても場が暗くならない」宮部みゆきの雰囲気を知っていれば、他の暗めの宮部みゆきを読めるかも。宮部みゆきの暗めの小説は、大森望に解説を書いてもらうといいかも。2013/05/17
yoshida
298
古書専門店「田辺書店」。店主のイワさんと、店を手伝う孫の稔。この古書店を舞台に展開される珠玉の連作短編集。全6編で構成されるが、どの短編も良いですね。宮部みゆきさんは、市井の人間の持つ、隠れた痛みや悪意、忘れられぬ過去との苦しみ等、様々な感情を実に巧みに紡ぎだす。引き込まれて一気に読了。「詫びない年月」の東京大空襲まで遡る苦しい痛み。「うそつき喇叭」の犯人の恐ろしさ。「淋しい狩人」の犯人の理不尽さ。児童虐待や愉快犯等、世相も取り上げていて唸らせられる。これからも追いかけたい作家さん。宮部作品に外れなし。2016/12/18
こーた
295
古本屋の店先から、世の中を見ている。書かれて三十年くらい経って読むと、見つめていた世の中の「いま」は、ちょっとむかし、になっている。それでもひとの暮らしや考えや、こころの機微なんかはあまり変わっていないようにもおもえる。この時間軸のしなるかんじ、何かでも味わったことがある。そうだ、落語だ。そのときの「いま」を懸命に生きる人々を、本を通して見つめる。さらに三十年経って読んだらどう感じるだろう。新作は古典になっているだろうか。ずっと長く読まれて、またどこかで再会したい。できれば「たなべ書店」のような古書店で。2019/11/23
HIRO1970
249
⭐️⭐️⭐️久々の宮部さんでした。古書店店主とその孫を巡る短編集でした。何かしらの事件があり、この二人が解決してしまう異色の探偵物とも言えます。結構酷い事件もありますが、巻末の解説通りで暗くはならずに楽しめました。現代版の剣客商売のような深い洞察を感じられる作品でした。2014/10/29