内容説明
沖縄本島の東の海上に浮かぶ小さな島―久高島に琉球王朝よりはるか昔、古代人の心情から生まれ、「母神」を守護神とみる祭祀の形があった。それは、ノロをはじめとする女性神職者たちによって担われ、今日まで継承されてきている。12年に一度の大祭「イザイホー」、海の神が鎮まる海岸で豊漁を祈り草束を振るう神女や、海の彼方にある魂の原郷ニラーハラーの神となって登場する神女の威厳に満ちた姿が、かずかずの祭祀を彩っている。30年近くも琉球弧の祭祀を追いつづけてきた著者が、久高島祭祀の多層なシーンをカメラとペンで記録した。30余枚の写真とともに、古代人の鎮魂のありようを伝える貴重な1冊。
目次
序章 久高島の祭祀世界
第1章 魂の発見
第2章 守護神の成立
第3章 海神からの贈り物
第4章 神々の鎮まる場所
第5章 巫女の力
第6章 久高島祭祀の風景
第7章 自然から紡ぎ出した物語
第8章 誕生・結婚、そして死
終章 崩れゆく母たちの神
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ナディ
35
この本が出版された時点で久高島の祭祀は変わり、イザイホーもなくなってしまった。継承していくことの尊さと近代化は相容れないのか。島人だけでのイザイホーの復活は難しいのだろう。昔のシャーマンは本当に超能力者で仕切ったと思うと、見たかったというのが本音。2017/11/18
翔亀
34
【沖縄22】池澤夏樹さんが沖縄本島南部の知念に建てた家から見える島、久高島。本書の帯には池澤さんの「日本の根は沖縄にある。沖縄の根は久高島にある。ぼくはこの本を百回読むだろう」とのコメントがある。1980年代頃まで古来の祭儀が執り行われ、多くの民俗学者が注目したらしい。著者は、沖縄のさまざまな祭儀を写真に収めてきた著名な写真家。久高島も10年間ほど集中して取材した。本書は一般向けに久高島の祭儀を紹介したもの。■久高島が、日本の根かどうかはわからないが、年40回以上執り行われる祭儀が、人口400人程度と↓2021/11/12
ただぞぅ
13
神の島と言われている久高島。琉球神話ではアマミキヨが最初に降り立ったとされ島全体が聖地とされている。母系社会が形成されたこの地では女性が祭祀を担う。本土では相撲の土俵が女人禁制であるように祭祀の多くが男性神職者により担っているが久高島の最高聖地は男性が立入禁止(今までは何人たりとも禁止)となっている。かつて女性は農業や子育て、祭祀を行い出漁中の男達の安全と大漁を祈りながら帰りを待っていた。そのため女性は家族の守護者として生きる風習が形成され今日まで継承されている。古代の祭祀の原形が今なお残っている。2024/12/06
ken
11
肉体の消滅後も不滅の霊魂はあの世とこの世を循環し島の安寧と秩序を守り続ける。その霊魂を司り祭祀を取り仕切るのが久高島の女性シャーマンたち。古代から現代に至るまで脈々と受け継がれてきた久高島の宇宙観を最も具現化しているのが600年の歴史を持つ有名なイザイホーだ。これは島で育った女性たちが神になる通過儀礼で12年に一度行われる。近代化を免れて生き残った人間の原始的宗教心の現れだともいえるが、残念ながら1978年を最後に島の過疎化から行われていない。彼らの精神世界、人間の魂の原郷が失われてしまうのはあまりに残念2017/07/30
うえ
7
「御嶽には鳥居もなければ境界を示すような人工の物は何もない。一つの森が漠然と御嶽だと考えられているので、正確な広さもわからない。森の広がり具合で判断するほかはない。祭場になる御嶽には広場と礼拝の拠り所になる自然石と石製の香枦があるだけで、ほとんど自然のままである。久高島の御嶽はその末裔たちによって、祖先の魂が存在するところとして記憶され、伝承されていた。農耕が始まって開墾をするようになっても、祖先の生活の場、魂の鎮まっている場所として御嶽は残され、あるいは祈願の場所として使われていたのかもしれない」2019/03/26