出版社内容情報
学生時代の大家・雪子さんの訃報を知った薫に20年前の記憶が蘇る。人間関係のひだを繊細に描く傑作。第158回芥川賞候補作。東京に出張した薫は、新聞記事で、大学時代を過ごしたアパートの大家・雪子さんが、熱中症でひとり亡くなったことを知った。
20年ぶりにアパートに向かう道で、彼は、当時の日々を思い出していく。
人間関係の襞を繊細に描く、著者新境地の傑作!
第158回芥川賞候補作。
木村 紅美[キムラ クミ]
著・文・その他
内容説明
東京・高円寺の家賃5万円のアパート月光荘。「サロン」と名付けた居間を下宿人に開放して食事や小遣いまで世話を焼くひとり暮らしの大家・雪子さんと、大学3年生の薫と、同い年のOL小野田さん。微妙なバランスで3人の関係は続いていたが…。第158回芥川賞候補作!
著者等紹介
木村紅美[キムラクミ]
1976年兵庫県生まれ。小学校6年生から高校卒業まで宮城県仙台市で過ごし、現在の実家は岩手県盛岡市。明治学院大学文学部芸術学科卒。2006年に「風化する女」で第102回文學界新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
216
第158回芥川賞受賞作・候補作、3作目(3/5)です。木村紅美、初読です。候補作品1作のみなので、帰りの電車で一気読みでした。都会の人間関係の距離感と孤独死を考えさせられる作品、テーマの割には暗さが控えめな内容です。芥川賞受賞には少し暗さが足りなかったのかも知れません。2018/02/19
雪風のねこ@(=´ω`=)
114
前半期同賞候補となった4時過ぎの船に主題が似ているかな。人は誰しも、誰かを気遣い、気遣われたいと願うものである。それを自分の都合の良い所だけを千切って他は棄ててしまうのは、まだまだ子供と言えよう。それじゃあ人に好かれる事も、小説を書く事も出来まい。何か現代における少子化の遠因ともなった様な感じがして、少々肌が粟立つ感じもする。墓参りしてやれよ、薫。小野田と一緒にね。そうでなければ、他人どころか自分すらも愛する事は出来ない。永久にね。 2017/12/24
fwhd8325
95
薫、小野田さん、そして雪子さん。切り取った景色のようだけど、心の澱のように染みついて離れない。雪子さんの無垢であることは、美しいではなく怖さを秘めている。考えれば、それを利用しているような罪悪感もある。時代が流れ、景色の変化も映し出されるが、あの頃の景色は、むしろ鮮明になって記憶を呼び起こしてしまう。切なさと同時に、時の流れ、人生は常に残酷さと背中合わせにあるのかもしれない。2018/05/22
ででんでん
85
息子を亡くした70歳くらいの雪子さんの孤独、そこから来ると思われる若い店子へのものすごい介入ぶりは、断ろうと思えばシャットアウトできるのではないか(留守中に入られるのは無理だけど)。雪子さんがそうなる気持ちもわからないことはない。(息子の存在は逆に彼女にとってストレスでもあったかも?)。それよりも私が不快に感じ、理解できなかったのは、その介入をしぶしぶ?受け入れ、当然のように差し入れのごはんのメニューを指定する薫。そして小野田。彼が主人公(語り手)なので、共感がしづらく、最後まで違和感を抱いたままだった。2018/07/02
なゆ
83
大学生の頃に住んでたアパートの大家さんだった雪子さんが亡くなったことを知り、当時のことを思い出す。他人との距離感のとり方の難しさ、だなぁ。過剰なおせっかいが重なるともうほとんどホラーの世界。なにかに搦め捕られそうなザワザワ。え?そんな作風だっけ?こんなに優しげな表紙なのに。雪子さんの言う“サロン”もわからないではないけど、出てくる3人ともが不器用で何かズレてる。薫だって、おいしいトコは甘えてた訳だしそこはズルい。小野田さんも闇がありそうで。でもきっと、この後で改善されたんだろう、と思いたい。2018/04/27