出版社内容情報
アウシュヴィッツを奇跡的に生き延びた主人公=作者レーヴィ(1919-87)が、故郷トリーノに戻るまでの約9ヶ月の旅の記録。アウシュヴィッツという死の世界を体験した者は、いかにして一度失った生をふたたび獲得できるか。
内容説明
人間の肉体だけでなく、魂をも破壊した“アウシュヴィッツ”という死の世界を体験した者が、いかにして普通の世界に戻っていくのか、いかにして一度失った生を新たに獲得していくのか―。絶滅収容所を奇跡的に生き延びた主人公=作者レーヴィ(1919‐87)が、故郷イタリア・トリーノに生還するまでの約9カ月の旅の記録。
目次
雪解け
大収容所
ギリシア人
カトヴィーツェ
チェーザレ
ヴィクトリー・デイ
夢見るものたち
南に向かって
北に向かって
クーリツァ
古い道
森と道
ヴァカンス
演劇
スターリエ・ダローギからヤーシへ
ヤーシからリネアへ
目覚め
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
takaichiro
108
アウシュビッツから生還を果たした化学者、レーヴィの帰還奇譚。ラーゲルから故郷イタリアへ帰る旅路で、戦禍を潜り抜け懸命に生きようとする多くの人々と出会い、生き続ける喜びを回復していく・・が最後のシーンは衝撃。実は夢。ひと時の安堵感は凍てつく寒さの中に響く「起床!」!の号令で崩れ去る。足元、中東情勢がきな臭くなってきた。安全な場所で聴衆を前に勇敢な指揮官きどりで演説する為政者。相互に攻撃も辞さない様相。軍同士の争いならまだしも、汗水たらしその日の暮らしを懸命に生きる市井の民には危害が及ばない様、願うばかり。2020/01/09
扉のこちら側
33
初読。アウシュヴィッツという地獄を体験した者がいかにして普通の世界に戻れるか。いかにして一度失った人間としての尊厳を取り戻すのか。故郷イタリア・トリノに生還するまでの9ヵ月の旅路の物語。化学技師と作家として帰国後に評価を得るが、レーヴィは1987年に自殺を遂げる。アウシュヴィッツの毒と関係ないとは誰にも言えない。2013/02/21
ネムル
27
アウシュヴィッツから解放されて後、ソ連・東欧諸国・オーストリアを経巡り、イタリアに帰還する旅の記録。『これが人間か』に比べて人間性の回復に向けた明るさがほの見えるが、終戦でも解放でもない「休戦」という辛辣な観察が冴える。特に、解放されて間もなくレーヴィが民衆の前で体験を語るところ、ポーランド人の通訳によってユダヤ人でなく、政治犯として紹介される。その事に通訳は「その方があなたにとっていいからだ。戦争はまだ終わっていない」と説明する。まだドイツが降伏していない、という以上の意味が込められている。2019/09/25
ステビア
23
アウシュビッツからの帰郷2022/06/18
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
23
第二次世界大戦でドイツの収容所にいながら、奇跡的に生き延びた、イタリアのユダヤ人の作者の解放から帰国までの10ヶ月の手記。ソビエトによる解放後も、帰国を待てず死んでいく仲間や、アウシュビッツで生まれて誰からも保護されず言葉も覚えないまま、歩くこともできなく死んでいく3歳の男の子などの、大勢のユダヤ人のその後の細かな観察。作者は無事帰国して作家となったが、70歳を前にして自死した。過酷な体験は何の落ち度も無かった若者から奪い尽くしたのだ。2015/06/15