内容説明
1995年3月某日。渋谷駅で毒ガス散布事件が発生。実行犯として指名手配されたのは宗教団体「光の心教団」の幹部男性と、何も知らずに同行させられた23歳の信者岡本啓美。この日から、無実の啓美の長い逃亡劇が始まった。他人を演じ続けて17年、流れついた地で彼女が見つけた本当の“罪”とはいったい何だったのか―。
著者等紹介
桜木紫乃[サクラギシノ]
1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年、単行本『氷平線』でデビュー。13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、同年『ホテルローヤル』で第149回直木賞、20年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
302
桜木 紫乃は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。本書は、旧オウム真理教菊池直子モデル壮絶逃避行物語でした。タイトルからイメージしていた内容と大幅に異なりましたが、主人公の凄まじい人生、大変読み応えがありました。 https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230911/se1/00m/020/001000d2024/01/15
たっくん
214
月が溶け始めた。月明かりが届く場所へひときわ大柄の男が歩み出た。「岡本啓美さんですね」「はい」数人の男たちが女を取り囲んだ。月とともに女の足跡も溶け始める・・・バレリーナを目指していた少女は、ダンス教室を営む母親の束縛から逃れるため、叔母の勧めで「光の心教団」に入信、出家した。1995年、教団が渋谷駅毒ガス散布事件を起こす。何も知らずに実行犯の教団幹部に同行した23歳の啓美は、重罪犯として追われることになった、十七年に及ぶ逃亡劇。桜木紫乃さんの描く女性は秀逸、面白く読了。2023/10/23
のぶ
199
今までの桜木さんとは毛色の変わった作品だったが、内容は充実していた。主人公の岡本啓美は、「光の心教団」という宗教団体に所属している。その団体が起こしたテロ事件への関与を疑われ、長い年月を別人になりすまし、逃亡し続けた女性の物語。啓美が逃亡生活の中で出会うのは、自分と同じように家族に苦しめられたり、社会から見放された痛みを持つ人々である。それぞれとの関係は、啓美を救うものであると同時に、他人になりすますという生活を維持する上での足枷にもなる。そんな生活がどんなものだったか、苦しさが伝わってきた。2023/09/29
いつでも母さん
190
ただの逃亡劇だと思ったら大間違い。桜木さんが凄いのを読ませてくれた。色んな女が出て来る。女は誰も死なない。幼かった腹違いの妹までもが生に強かだ(褒めてます)ーなにひとつ、自分では選んでいないーそう言う岡本啓美を哀れと思うか。愚かと思うか。選んでるじゃない!そんな心の声も聞こえてきそうだ・・幾つもの暮らしを棄てる女、流れに任せる女、ある種の凄みさえ感じるこんな女が一番逞しく生き延びるのだろうか。私が掛ける言葉は一つだけ「もっと早くに気づけよ!」2023/10/05
nonpono
183
あらすじを読み誰かを思い浮かべた人はいるだろう。ある宗教の逃亡者は自ら出頭したのにふざけていると思われたり、普通に働いていたり、結婚を約束した男の身内に通報されたりを見てきたから。逃げながら、周りを結果的に救っていく主人公。バレエを巡る家族の呪縛。そして唯一、心を開いた男への執着。内訳話を聞いただけで何が変わろうか、という思いに落涙していた。人は自分を語りすぎるのかもしれない。所詮、過去なんだ。一気に読んだ。バレエの場面がひりひりする。ある宗教に逃げ込んだ人もいたらしい。人は何かに寄りかかり生きていく。2023/12/23