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四十一

北田暁大

『思想地図』特集・日本論


●北田暁大さんエッセイ「日本論」ブックガイドに寄せて

 「日本とは何か」。このきわめて抽象的で不可解な問いに答えを与えていく作業が「日本論」である。かつて、少なくとも1980年代頃までの日本の言論空間では、この「日本論」が多く産み落とされ、そのなかのいくつかは、けっして小さくない社会的影響力を発揮した。戦後日本の思想地図を構想していくうえで、「日本論」の系譜を辿りなおしていくことは、現在の、そして未来の思想状況を考えていくうえで、きわめて重要な意味を持つはずだ。東浩紀・北田暁大編『思想地図vol.1』では、そうした問題意識に立ち、戦後・日本論に照準したブックガイドを掲載している。

 日本論、日本文化論の基本的なフォーマットは、欧米と比較したときの日本人の「集団主義」的傾向の強さを強調し、それを文化・社会・経済の特殊性と結びつける、というものだ。そうしたフォーマットはもちろん戦前から見られるものではあるが、戦後の思想空間を考えるとき、ルース・ベネディクト『菊と刀』、そして敗戦後の焦土に立ちながら、日本社会について批判的・反省的なまなざしを向けた「戦後民主主義者」たち---丸山真男、川島武宜、大塚久雄---の著作を看過することはできない。ブックガイドでは、そうした戦後日本論の端緒から、高度経済成長とともに現れてくる日本型経営論、組織論や、消費社会の進展と相まって生み出された日本社会論などを、網羅的に紹介している。

 90年代以降になると、「集団主義」に定位する日本特殊性論は影を潜め、かわりに「日本論・論」、メタ日本論とでも呼ぶべき著作が次々と提示される。その嚆矢となったのが青木保『「日本文化論」の変容』である。この著作の後、ポストコロニアリズムやカルチュラル・スタディーズと問題意識を共有したメタ日本論、日本的なものの本質化を批判する言説(社会構成主義的な日本分析)が次々と生み出された。高度経済成長、消費社会、バブルのなかで奇妙な形で温存されてきた日本特殊性論はラディカルに批判され、「国民国家」「日本的なもの」を相対化する日本論・論が様々な学問領域で展開されていく。

 再帰性を上昇させたメタ日本論の後に(その成果を踏まえた上で)、いったいいかなる日本論、日本社会論が可能なのか---この困難な問いに立ち向かうことこそが、00年代に生きる私たちの課題といえるだろう。

【北田暁大】


●北田暁大さんプロフィール

北田暁大さん1971年生まれ。東京大学大学院情報学環准教授。
理論社会学、メディア史。
著書に『広告の誕生』(岩波書店)
広告都市・東京』(廣済堂ライブラリー)
責任と正義』(頸草書房)
<意味>への抗い』(せりか書房)
嗤う日本の「ナショナリズム」』(NHKブックス)
「限界」の思考』(共著、双風舎)ほか。

思想地図
思想地図〈vol.1〉特集・日本

東浩紀・北田暁大【編】
日本放送出版協会(2008-04-25出版)
1,575円(税込)

「思想の力を取り戻せ!」
思想はいま、本当に沈滞しているのか?「社会問題」への性急な処方箋でもなく、イージーな「人生論」でもない、思想本来の力とはなにか?ゼロ年代の思想を俯瞰し、その限界を突破せよ!来るべき10年代に向けた〈知〉の羅針盤を作れ!現代日本の課題に真摯に向き合う、若き論客の論文を多数収載。「抽象的思考」の可能性がいまここに繰り広げられる!

●編集委員
東浩紀、 北田暁大
●執筆者
伊藤剛、川瀬貴也、互咏梅、萱野稔人、黒宮一太、齊藤哲也、白井聡、芹沢一也、中島岳志、福嶋亮太、白田秀彰、高原基彰、韓東賢、増田聡
●公募論文執筆者
黒瀬陽平


■場所 紀伊國屋書店新宿本店 5Fカウンター前
■会期 2008年5月7日〜6月中旬
■お問合せ 紀伊國屋書店新宿本店 03-3354-0131

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