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【福岡伸一さんと生命をさぐる旅へ】

(No.295 2009.12. 8配信号)



『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』『世界は分けてもわからない』・・・近年、新刊のことごとくが、全読書人の耳目を集める福岡伸一さん。分子生物学者として、最先端の生命観をわかりやすく伝える一方、しなやかな文学的センスがみなぎるその筆は、多くの人を魅了しています。

生きているとはどういうことか?―その問いかけは、専門的な科学探究のフィールドを超えて、各分野の知性との刺激的な対話を誘います。そして、すべての生きとし生けるものにとって根源的な、食と農の問題も生物学の視点から新しく問い直され、日々の実践を新たにしてくれます。

ここでは、「いのちを旅する本」として、福岡伸一さんが選書された本をご紹介いたします。

◇◆INDEX◆◇
 1.福岡伸一さんエッセイ
 2.福岡伸一さんの代表作
 3.生命とは何か
 4.絵本や小説に描かれた生命のすがた
 5.食と農を問い直す
 6.関連ブックフェアのご紹介 新宿本店5階「じんぶんや」
  第五十六講 福岡伸一選 ― いのちを旅する本

※紀伊國屋書店新宿本店5階「じんぶんや」第五十六講
 「福岡伸一選 ― いのちを旅する本」での選書を再構成しております。
 全体をご覧になりたい方は、以下をご覧ください。
 ⇒ http://bookweb.kinokuniya.jp/bookfair/prpjn56.html

Books
1.福岡伸一さんエッセイ



生物学者になる前、私は昆虫少年だった。夢は新種の蝶を捕えて命名し、それを図鑑に記載することだった。しかし新しい蝶など見つかるはずもなく、私の夢は夢に終わった。年を経て、私は捕虫網をミクロな実験装置に持ちかえて、遺伝子ハンターとなった。細胞の内部に分け入ると、そこはまだ未知の森が広がっており、採集する遺伝子はどれも新種だった。

私が発見した遺伝子のひとつにGP2がある。GPとはグリコプロテインの略で、重要な働きをしている遺伝子に違いないと目されたが、肝心の機能はさっぱり不明であった。そこで私はGP2遺伝子ノックアウトマウスを作製した。ゲノムからGP2の情報だけを消去する操作を行い、そこから実験用マウスを誕生させたのである。このマウスは、GP2を作り出すことができない。それゆえ、このマウスに生じる異常を調べるとGP2の役割がわかる。そういう作戦だった。ところが生まれてきたマウスには全くもって健康だった。いくら調べても異常は見つからなかった。

これはまさに生命の「動的平衡」のなせるわざである。そう私はさとった。欠損や問題点があっても他の要素やしくみが働いてそれを補うように平衡を保つ。それが生命の持つもっとも重要な特徴だ。機械論的に生命を見ると動的平衡を見失いがちになる。

とはいえ動的平衡も完全ではない。危ういバランスの上にある。ごく最近に、GP2遺伝子ノックアウトマウスの問題点が明らかになった。消化管経由の細菌に対する防御が弱くなっていたのだ。実験室のマウスはクリーンな環境で飼育されているので、細菌感染におけるGP2の役割が分からなかったのである。この発見は、科学専門誌ネイチャーに掲載された。

生命の動的平衡は、柔軟で可変的であるとともに脆弱なものでもある。そのような生命のふるまいを今後とも研究していきたいと私は思う。

福岡伸一さんプロフィール:
1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学理工学部 化学・生命科学科教授。分子生物学専攻。

※以下、書籍のコメントは、全て福岡伸一さんのものです。

Books
2.福岡伸一さんの代表作

【1】生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
4061498916の画像福岡伸一【著】
2007/05 (講談社)

標準価格:税込\777    ISBN:9784061498914
★この本は65万部も売れてしまいました。著者の私自身、いまだに信じられないこと。生命とは何か?という問いは、人類始まって以来の問いかけであり、それは時代時代によって様々な文体で解答が試みられてきた。今、またこの答えが新しい言葉で求められているのかもしれない。

【2】世界は分けてもわからない (講談社現代新書)
4062880008の画像福岡伸一【著】
2009/07 (講談社)

標準価格:税込\819    ISBN:9784062880008
★前著「生物と無生物のあいだ」の続編にあたる本書は、私たちは世界を分けて分けてここまで来たが、それでいったい何がわかったのか、ということを書いた。まずは口絵の写真を見てほしい。ここにこの本のすべてが含まれている。面白く書きましたので、是非、お読みください。

【3】動的平衡―生命はなぜそこに宿るのか
4863240120の画像福岡伸一【著】
2009/02 (木楽舎)

標準価格:税込\1,600    ISBN:9784863240124
★生命とは何か? その問いに端的に答えるとすれば、それは「動的平衡」である。ちょっと難しく聞こえるかもしれないが、内容はシンプル。バイオテクノロジーや食の安全、病気、ダイエット、記憶など身近なトピックスを題材に、動的平衡とは何かを考えた一冊。

【4】できそこないの男たち (光文社新書)
4334034748の画像福岡伸一【著】
2008/10 (光文社)

標準価格:税込\861    ISBN:9784334034740
★<生命の基本仕様>――それは女である。男は単なる使い走り≠ノ過ぎない――分子生物学が明らかにした男を男たらしめる秘密の鍵「SRY遺伝子」。その発見をめぐる研究者たちの白熱したレースと駆け引きの息吹を伝えながら、“女と男”の“本当の関係”に迫っています。

Books
3.生命とは何か

【1】生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)
4003394615の画像シュレーディンガー【著】〈Schr¨odinger,Erwin〉 / 岡小天 / 鎮目恭夫【訳】
2008/05 (岩波書店)

標準価格:税込\630    ISBN:9784003394618
★この本を読んだことによって、若い研究者たちは生命現象を解き明かそうと躍起になった。そしてDNAの二重らせんを解明する偉業を成し遂げた。なぜなら、シュレーディンガーはここで二つの失敗をしてくれたから。本書が書かれた1944年当時、まだDNAはどういうものか誰もわかっていなかった。彼は、遺伝情報になっている物質としてのDNAはきっと不規則な結晶構造を持っていると予言した。でも、大ハズレだった。
もう一つ彼は、大きな誤りを犯した。生命の秩序を維持できるのはなぜかという問いに考えを巡らせた挙句に……。
だが、その失敗はどちらも重要な失敗だった。彼の大失敗を改訂するものとして、二十世紀の分子生物学が幕開けしたのは間違いないのだから。

【2】生命を捉えなおす―生きている状態とは何か (中公新書〈503〉) (増補版)
4121905032の画像清水博【著】
1990/10 (中央公論社)

標準価格:税込\987    ISBN:9784121905031
★シュレーディンガーの『生命とは何か』以降、世界中のあらゆる科学者が生命の本質に向き合い、あらゆる著書を発表していった。そのなかで、はじめて生命とは何かという問いに真っ向勝負で挑んだ日本人は、まちがいなく清水博だった。
生命とは、その物質自体ではなく、物質と物質の関係が大事で、それに参画しているものを「関係子」という。関係のあり方の例を挙げながら、関係子という問題から生命を捉えなおす。それは必ずしもすべてが正しいというわけではなかった。それでも、学者生命をかけて、彼は声を上げたのだ。これから学者として身を立てていこうと思っていた私の出発点にあったモニュメンタルな一冊。

【3】非線形科学 (集英社新書)
4087204081の画像蔵本由紀【著】
2007/09 (集英社)

標準価格:税込\735    ISBN:9784087204087
★動的平衡を考えるとき、避けて通れないのはシンクロ現象である。ホタルの発光の同調、脳波の同調。数式を使わず同調現象の原理を解説した好著。

【4】利己的な遺伝子 (増補新装版)
4314010037の画像ドーキンス,リチャード【著】〈Dawkins,Richard〉 / 日高敏隆 / 岸由二 / 羽田節子 / 垂水雄二【訳】
2006/05 (紀伊國屋書店)

標準価格:税込\2,940    ISBN:9784314010030
★生物は遺伝子にしてみたら単なる乗り物に過ぎない。遺伝子はそれが便利だから乗っかっているだけで、固体は乗り物に過ぎない。「●●は、▲▲に過ぎない」という言い切り方は、いつの時代も青年を熱狂させる。そして、それは過激であればあるほどかっこいい。本は常に何かを言い切っては、新しいアイデアを示してくれる。だが、差し出されたものにただ身を委ねてしまっては、冒険ではなくなるだろう。ドーキンスのかっこよさを目の当たりにした大学生の私は、なんとか彼を越えたいと思った。

【5】ダーウィンのジレンマを解く―新規性の進化発生理論
4622074052の画像カーシュナー,マーク・W.〈Kirschner,Marc W.〉 / ゲルハルト,ジョン・C.【著】〈Gerhart,John C.〉 / 滋賀陽子【訳】 / 赤坂甲治【監訳】
2008/08 (みすず書房)

標準価格:税込\3,570    ISBN:9784622074052
★ダーウィンは正しかったが、生命のすべてを説明できてはいない。複雑なデザイン性を示す生命のしくみのなりたちを、現代生物学はどのように語りうるのか。最新の到達点を示した労作。

【6】ミトコンドリアが進化を決めた
4622073404の画像レーン,ニック【著】〈Lane,Nick〉 / 斉藤隆央【訳】 / 田中雅嗣【解説】
2007/12 (みすず書房)

標準価格:税込\3,990    ISBN:9784622073406
★細胞の中のミトコンドリアは、酸素を使ってエネルギーを生み出している。そのミトコンドリアの内部共生が、生物の誕生を可能にしたというセオリーは、専門家のあいだでも長年の間、特異な現象として扱われてきた。人類の進化に、それほど影響を及ぼしていたとは・・・。生命の歴史をミトコンドリアを通して語り直すという大胆な書。いずれは反証が出てくるだろう。それでも、今、言い切るという大胆さは冒険に値する。

【7】系統樹思考の世界―すべてはツリーとともに (講談社現代新書)
4061498495の画像三中信宏【著】
2006/07 (講談社)

標準価格:税込\819    ISBN:9784061498495
★この世界にあまた存在している多種多様の生物を分類したい。その進化の道筋をたどってみたい。つまり世界をくまなく記述しつくしたい。これは生物学者のもっとも根源的な問いかけであり、かつ本質的な欲望でもある。しかし、それを極めていくと私たちは奇怪な迷宮にとらわれていく。画期的な哲学書としても読める。

Books
4.絵本や小説に描かれた生命のすがた

【1】ペツェッティ−ノ じぶんをみつけたぶぶんひんのはなし
4769020074の画像レオ・レオニ / 谷川俊太郎
1978/06 (好学社)

標準価格:税込\1,528    ISBN:9784769020073
★生きるってどういうこと?生命始の誕生以来の大問題であり、永遠の謎である。それを説明するためにあらゆる学問はあると思う。その答えをある種のかたちで見つけようとしたのが、本書。レオ=レオニは、生命の部分と全体を考える上で私が書こうとしているモチーフを、誰よりも鮮やかなかたちで語っている。

【2】さよならトンボ
4579404114の画像石亀泰郎【著】
2002/06 (文化出版局)

標準価格:税込\1,575    ISBN:9784579404117
★トンボの一生を紡いだこの写真集は、センチメンタルでもなければ、啓蒙的でもない。生命とは何かを端的に表している。圧巻なのは、表紙だろう。ある冬の寒い朝に凍っているトンボ。そこに命はなくとも、ただ凍てついて死んでいるトンボがこれほど美しいとは。最後のページは、生命の循環を示唆しつつ、固体の死が一回限りの物としてあることを教えてくれる。

【3】はるにれ (日本傑作絵本シリ−ズ)
4834008576の画像姉崎一馬
1981/11 (福音館書店)

標準価格:税込\945    ISBN:9784834008579
★前出の『さよならトンボ』と同様のモチーフが本書にも。北海道の原野に一本だけ立つはるにれの樹は、秋にすっかり葉を落としたあと、厳冬期、吹雪と凍土に閉じ込められながらも、その場にすっくと居続けている。やがてここにも遅い春が。

【4】せいめいのれきし (大型絵本)
4001105519の画像ヴァ−ジニア・リ−・バ−トン / 石井桃子
1981/04 (岩波書店)

標準価格:税込\1,680    ISBN:9784001105513
★『ちいさいおうち』で知られる絵本作家が人生の最後に書いた作品。この宇宙に地球が生まれ、生命が誕生し、それが連綿と続いてきたこと。この奇跡的な出来事が5幕の壮麗な劇となっている。生命の歴史を扱った本で、この本にまさる本を私は知らない。

【5】わたくし率イン歯ー、または世界 わたくし率イン歯ー、または世界;感じる専門家採用試験
4062142139の画像川上未映子【著】
2007/07 (講談社)

標準価格:税込\1,365    ISBN:9784062142137
★人間は本当に脳で考えているのか。「わたくし」ははたして脳に局在しているのか。それは科学的に検証することが難しい問題である。川上さんはまるで脳科学者を笑い飛ばすかのように、その問題に挑んでいる。

【6】きみのいる生活
4163681604の画像大竹昭子【著】
2006/06 (文藝春秋)

標準価格:税込\2,199    ISBN:9784163681603
★スナネズミと暮らした日々、思わず笑わされ、知らず知らず感情移入させられる。最近読んだ中でもっとも素敵な動物記。

Books
5.食と農を問い直す

【1】生命と食 (岩波ブックレット)
400009436Xの画像福岡伸一【著】
2008/08 (岩波書店)

標準価格:税込\504    ISBN:9784000094368
★私たちはなぜ食べつつけなければならないのだろうか。機械論的に考えれば答えは単純。生命と食は、エンジンとガソリンの関係にある。はたしてそれだけだろうか。実はそうではない。生きているというのは、絶え間のない分子の合成と分解の流れの中に成立する状態であり、その流れをとめないために私たちは食べ続けなければならない。分子生物学が明らかにした古くて新しい生命観。

【2】ロハスの思考 (ソトコト新書)
4907818718の画像福岡伸一【著】
2006/05 (木楽舎)

標準価格:税込\800    ISBN:9784907818715
★ロハスとは、ある種の思想改革である。つまり、これまで私たちを支配しようとしていたファストフードという名の加速、あるいはグローバリゼーションという名の均質化に対するパラダイムシフトである。線形的な加速から、円形的な循環を模索する思考といってもいい。言い換えるなら、閉じられた思考を開く思考である。

【3】思考する豚
4863240171の画像ワトソン,ライアル【著】〈Watson,Lyall〉 / 福岡伸一【訳】
2009/11 (木楽舎)

標準価格:税込\2,625    ISBN:9784863240179
★豚は非常に清潔好きで、知的で、上品で寛容な動物である。その寛容ゆえに人間の非寛容を許してくれている。自然を自然として見つめ続けたライアル・ワトソン最後の作品。それは豚と人間をめぐる繊細で美しい物語。私たちは豚を育て、豚を愛し、そして最後にはおいしく食べてしまう。

【4】もう牛を食べても安心か (文春新書)
4166604163の画像福岡伸一【著】
2004/12 (文芸春秋)

標準価格:税込\756    ISBN:9784166604166
★狂牛病は、英語"mad cow disease" の直訳で、日本語でも英語でも、牛が狂った病気という意味である。しかし、その実相は違う。狂牛病は、人が牛を狂わせた病気、つまり人災としてある。近代畜産システムの下で、牛はもはや草食動物ではない。効率のために、食物連鎖を組み換えることがいったい何をもたらしたのか。狂牛病が問いかけたものを動的平衡の生態論から読み解く。

【5】プリオン説はほんとうか?―タンパク質病原体説をめぐるミステリー (ブルーバックス)
4062575043の画像福岡伸一【著】
2005/11 (講談社)

標準価格:税込\945    ISBN:9784062575041
★狂牛病の病原体は、プリオンである。プリオンとは、細菌でもなく、ウイルスでもない全く新しいタイプの病原体。遺伝子を持たず、タンパク質だけからなる。そんな病原体がいったいどのようにして消化を免れ、免疫系をすり抜け、脳にまで達し、病気を引き起こすのか。ノーベル賞を受賞した「プリオン説」を批判的に再考察した挑戦の書。科学とは何かを問う。

【6】ハチはなぜ大量死したのか
4163710302の画像ジェイコブセン,ローワン【著】〈Jacobsen,Rowan〉 / 中里京子【訳】 / 福岡伸一【解説】
2009/01 (文藝春秋)

標準価格:税込\2,000    ISBN:9784163710303
★近代農業のもとで、ミツバチは完全に機械の一部となっている。そのハチに謎の奇病が襲いかかった。「沈黙の春」の現代版ともいえる一冊。

Books
6.関連ブックフェアのご紹介 新宿本店5階「じんぶんや」
  第五十六講 福岡伸一選 ― いのちを旅する本

12/7より新宿本店5階にて、当テーマのフェアを開催しております。
東京近郊の方は、ぜひご来店ください。

 ◇開催場所 : 紀伊國屋書店新宿本店 5階カウンター前

 ◇会   期 : 2009年12月7日 〜 2010年1月7日

 ◇お問合せ : 紀伊國屋書店新宿本店 03-3354-0131
           http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/01.htm

※「じんぶんや」とは―
  2004年9月から開始した「月替わりのテーマ、月替わりのプロの選者」をコンセプトにした、
  新宿本店人文書売場オリジナルの常設コーナーです。
  これまでの「じんぶんや」はこちらから
   ⇒ http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/jinbunya/jinback.htm

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