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【苅谷剛彦選―曲がり角の教育を社会学する】

(No.272 2009. 6.30配信号)



「教育という現象や営みは、教育だけをみているだけではわからない―」

「価値まみれになりがちな教育論議や、聖性を帯びやすい教育言説を読み解くため」、また「現代の教育の多くが、すぐれて組織的・制度的な現象であり「システム」を通じて行われている」ことを考えるとき、社会学的な見方が必要です。

今回のe-Alert Plus!では、学力低下問題の第一人者であり、今秋からオックスフォード大学教授となる苅谷剛彦氏に、社会学の立場から教育を論じた著書をご選書頂いています。どうぞご覧ください。

◇◆INDEX◆◇
 1.苅谷剛彦氏エッセイ―「教育を社会学する」
 2.最新刊 『教育と平等― 大衆教育社会はいかに生成したか』刊行!
 3.教育を社会学するための本
 4.苅谷剛彦氏の著作から
 5.関連ブックフェアのご紹介
  新宿本店5階「じんぶんや」第五十一講 苅谷剛彦選 ― 曲がり角の教育を社会学する

※紀伊國屋書店新宿本店5階「じんぶんや」第五十一講
 「苅谷剛彦選 ― 曲がり角の教育を社会学する」での選書を再構成しております。
 全体をご覧になりたい方は、以下をご覧ください。
 ⇒ http://bookweb.kinokuniya.jp/bookfair/prpjn511.html

Books
1.苅谷剛彦氏エッセイ―「教育を社会学する」



教育の論じ方にはさまざまある。ここで紹介するのは、社会学の立場から教育を論じた著書の数々である。

なぜ社会学なのか。

ひとつには、教育という現象や営みは、教育だけをみているだけではわからないからである。とくに現代の教育が抱える問題の多くは、現代社会の変化と密接に関係している。しかも、その社会も、何十年という単位で生じる、大きな変化に直面している。それだけに、社会との関係抜きに教育を語ることが出来なくなっているというわけだ。

グローバル化した経済社会の影響も、少子高齢化や福祉国家のゆらぎも、ナショナルなものをめぐる問題も、もちろん格差問題も、「教育と社会」の問題につながる。社会から切り離して、教育や子どもや若者の問題を語ることは無謀に思えるほどである。

二番目には、社会学という学問が、社会の内側にあって、自分たちを取り巻く社会そのものを問題にしようとする学問だからである。いいかえれば、社会の外側に何か超越的な基準を設けて価値判断をすることを警戒する神経を持ち合わせていると言うことだ。

そこには強みも弱みもあるのだが、教育を論じる主流の学問=教育学に対し、別の視点から教育を理解することを助けてくれる。とりわけ、価値まみれになりがちな教育論議や、聖性を帯びやすい教育言説を読み解くためには、一度そこから距離をおく必要がある。社会学的な見方は、それを可能にしてくれる。

三番目の理由は、現代の教育の多くは、すぐれて組織的・制度的な現象であり、「システム」を通じて行われているからである。学校にしても、教育行財政にしても、システムとして把握しなければ理解できない複雑性や関係性を備えている。それを読み解くのに社会学のツールが役立つのである。

印象論や体験論に基づく教育論もときに重要な知見を与えてくれるのだが、現代の教育がシステムとして成立していることを忘れると、思わぬ教育論議の暴走が始まる。それを避けるためにも、教育をシステムとしてとらえる社会学的な見方が求められるのである。

ともあれ、今回は教育を社会学するための基本となる著書を選んでみた。その多くは、教育を中心テーマとして扱った、教育社会学の「古典」と呼んでよい本である。また、直接教育を扱ってはいないが、現代の教育問題を考える
上で重要な視点を与えてくれる社会学の著書も補ってみた。

これらを通じて、通常の教育論とは違う教育の論じ方を味わってほしい。さらにいえば、現代の社会の変化を読み解く社会学の見方にも接してほしい。



■苅谷剛彦(かりや・たけひこ)氏プロフィール

オックスフォード大学教授。東京大学大学院教育学研究科教授(2009/9まで)。
専攻は教育社会学、比較社会学、現代日本社会論。

Books
2.最新刊 『教育と平等― 大衆教育社会はいかに生成したか』刊行!

【1】教育と平等―大衆教育社会はいかに生成したか (中公新書)
4121020065の画像苅谷剛彦【著】
2009/06 (中央公論新社)

標準価格:税込\882    ISBN:9784121020062
★戦後日本にとって“格差をなくす”とは、こういうことだった―

戦後日本の知られざる「革命」。戦後教育において「平等」とはどのように考えられてきたのか。

本書が注目するのは、義務教育費の配分と日本的な平等主義のプロセスである。
そのきわめて特異な背景には、戦前からの地方財政の逼迫と戦後の人口動態、アメリカから流入した「新教育」思想とが複雑に絡まっていた。個人の選択や多様性を重視する「個人化」への欲求が強まっているが、セーフティネットとしての役割を維持してきたこの「戦後レジーム」がなぜ崩壊しつつあるのか、その原点を探る。

Books
3.教育を社会学するための本


☆から始まる文章は、苅谷剛彦氏のものです。

【1】再生産―教育・社会・文化 (ブルデューライブラリー)
4938661241の画像ブルデュー,ピエール〈Bourdieu,Pierre〉 / パスロン,ジャン・クロード【著】〈Passeron,Jean Claude〉 / 宮島喬【訳】
1991/04 (藤原書店)

標準価格:税込\3,885    ISBN:9784938661243
☆教育が社会の不平等に寄与していることを「文化的再生産」として理論化したブルデューの代表的著作。不平等論として言及されることが多いが、むしろ、教え込みの恣意性がいかにして正統なものと見なされるかをめぐる教育的コミュニケーション関係の読み解きに注目してほしい。(苅谷)

【2】学歴社会新しい文明病 (岩波モダンクラシックス)
4000271598の画像ロナルド・フィリップ・ド−ア / 松居弘道
2008/10 (岩波書店)

標準価格:税込\3,360    ISBN:9784000271592
☆古典とは時代を超えて色あせない書物をいう。その意味で、教育の社会学研究の古典中の古典。学歴社会を「後発効果(=遅れて近代化を開始した社会の特徴)」として、比較社会学的に読み解くドーアの視点の奥行きから学べるものは多い。(苅谷)

【3】ハマータウンの野郎ども (ちくま学芸文庫)
4480082964の画像ウィリス,ポール・E.【著】〈Willis,Paul E.〉 / 熊沢誠 / 山田潤【訳】
1996/09 (筑摩書房)

標準価格:税込\1,522    ISBN:9784480082961
☆ウィリスのこの本も、教育の社会学的研究の古典の名に恥じない一冊である。
「野郎どもの」の学校への反発が暴き出す教育の神秘性。反抗の文化の可能性と限界を読み解きつつ、今や神秘性が暴露されたあとの教育の可能性・不可能性について考える必要がある。(苅谷)

【4】学校改革抗争の100年―20世紀アメリカ教育史
4887138466の画像ラヴィッチ,ダイアン【著】〈Ravitch,Diane〉 / 末藤美津子 / 宮本健市郎 / 佐藤隆之【訳】
2008/07 (東信堂)

標準価格:税込\6,720    ISBN:9784887138469
☆アメリカの進歩主義教育の歴史を克明に綴った大著。かつて原著で読んだが翻訳が出た。教育界に根強いロマンティシズムから距離をおくには、ラヴィッチくらいの力業が必要だろう。(苅谷)

【5】教育と選抜の社会史 (ちくま学芸文庫)
4480089667の画像天野郁夫【著】
2006/02 (筑摩書房)

標準価格:税込\1,260    ISBN:9784480089663
☆日本における教育の社会学的研究の古典といえば、私は天野のこの一冊をまずあげたい。歴史と比較を駆使して、日本の学歴社会の特徴を描き出す。日本の教育と社会を対象に研究することの意味を学び取れる一冊。(苅谷)

【6】教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)
4121017048の画像竹内洋【著】
2003/07 (中央公論新社)

標準価格:税込\819    ISBN:9784121017048
☆教育の社会学的研究の読むべき「古典」として竹内の一冊を上げるとすると『日本のメリトクラシー』(東京大学出版会)のほうがいいのかなあと思いつつ、この書を上げたのは、教育の歴史を社会学的に扱うことの厚みと趣向を味わってほしいから。竹内節をご満喫ください。(苅谷)

※関連書
日本のメリトクラシ− 構造と心性
4130511068の画像竹内洋
1995/07 (東京大学出版会)

標準価格:税込\4,410    ISBN:9784130511063

【7】日本人のしつけは衰退したか (講談社現代新書) 「教育する家族」のゆくえ
4061494481の画像広田照幸
1999/04 (講談社)

標準価格:税込\756    ISBN:9784061494480
☆歴史社会学的な視点は、現状の教育論議の浅さや単調さの危うさを教えてくれる。その見本のような一冊が本書だろう。視点の相対化だけに終わらず、私たちの立ち位置を知る視座も読み取れるはずである。(苅谷)

【8】子どもたちのアフリカ―“忘れられた大陸”に希望の架け橋を
4000228552の画像石弘之【著】
2005/04 (岩波書店)

標準価格:税込\1,785    ISBN:9784000228558
☆事実や知識というものが力を持つことを教えてくれた一冊。同じ地球のどこかで起きている現実を前にすると、日本の教育論議の甘さや浅薄さがいやというほどわかる。とくに学校の先生には知ってほしい事実のたくさん詰まった本である。(苅谷)

【9】多元化する「能力」と日本社会―ハイパー・メリトクラシー化のなかで (日本の「現代」〈13〉)
4757141041の画像本田由紀【著】
2005/11 (NTT出版)

標準価格:税込\2,415    ISBN:9784757141049
☆教育にまつわる時代の変化を見事にとらえた一冊。変化を感じることやそれを自分の言葉で語ることと、実証研究にのせて研究として示すことには大きな違いがある。曲がり角を曲がった時代に、出るべくして出た教育の社会学的研究と言える著作である。(苅谷)

【10】学歴分断社会 (ちくま新書)
4480064796の画像吉川徹【著】
2009/03 (筑摩書房)

標準価格:税込\777    ISBN:9784480064790
☆精密なデータ分析を駆使しつつ、今何を問題にすべきかについての大きな見取り図も出してくれる。戦後60年が過ぎ、格差を論じれば何となく社会学の研究になりそうな時代に、教育の社会学的研究の古典的テーマと言える階層と学歴研究に新しい風を吹き込んでくれた一冊。(苅谷)

【11】新編 教えるということ (ちくま学芸文庫)
4480082875の画像大村はま【著】
1996/06 (筑摩書房)

標準価格:税込\840    ISBN:9784480082879
☆大学教師としての自分を支えてくれた一冊。研究ばかりでなく、教師として何を、どう伝えるべきか。大学で教え始めた頃に読んで以来、その原点を忘れないように心がけている。この本を読んでいなければ、『知的複眼思考法』は書けなかっただろう。(苅谷)

※関連書
知的複眼思考法―誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社プラスアルファ文庫)
4062566109の画像苅谷剛彦【著】
2002/05 (講談社)

標準価格:税込\924    ISBN:9784062566100

【12】危険社会―新しい近代への道 (叢書・ウニベルシタス)
4588006096の画像ベック,ウルリヒ【著】〈Beck,Ulrich〉 / 東廉 / 伊藤美登里【訳】
1998/10 (法政大学出版局)

標準価格:税込\5,250    ISBN:9784588006098
☆「リスク」や「リスク社会論」は、いまや社会科学の流行語になった感さえあるが、リスク社会と「個人化」の関係を最初に扱ったところにベックの鋭さがあった。労働市場の変化を視野に入れ、不平等の個人化に目を向けた点も卓見だった。(苅谷)

【13】言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)
4121017595の画像佐藤卓己【著】
2004/08 (中央公論新社)

標準価格:税込\1,029    ISBN:9784121017598
☆物書きとしての研究者にとって、自分の研究を通じて発見した事実や知識をどう読者に伝えるかは重要な資質。佐藤氏の著書には、その伝え方の冴えがいつもある。歴史研究の誘惑に誘われるのも、こういうものを読んでしまうからかも知れない。(苅谷)

【14】教育、グローバル化と社会変動:論集
Education, Globalization and Social Change
0199272530の画像Lauder, Hugh (EDT) / Brown, Phillip (EDT) / Dillabough, Jo-Anne (EDT) / H
2006/09 (Oxford Univ Pr)

Web販売価格:税込\4,656 / 標準価格:税込\5,813    ISBN:9780199272532
☆イギリス人研究者による教育の社会学的研究の最新の論文集。グローバル化のもとで、世界の教育がどんな課題を抱えているか、それに社会学がどう立ち向かえるかを扱った研究を集めたもの。

教育の社会学的研究の世界的潮流がわかると同時に、なぜ世界中が類似の問題に直面しているのかも理解できる。(苅谷)

【15】試験の社会史―近代日本の試験・教育・社会 (平凡社ライブラリー) (増補版)
4582766021の画像天野郁夫【著】
2007/02 (平凡社)

標準価格:税込\1,575    ISBN:9784582766028
★入試から資格試験まで、現代日本は「試験の社会」である。日本の教育システムが近代における産業社会化に伴い発展してきた過程を「試験・テスト」を軸に読み解く、ユニークな社会史。

【16】ニューカマーの子どもたち―学校と家族の間(はざま)の日常世界
4326250550の画像清水睦美【著】
2006/09 (勁草書房)

標準価格:税込\4,725    ISBN:9784326250554
★子どもたちはいかに学校や地域で「周辺に位置づく」ことになっているのか。
ボランティア兼研究者として学校・地域に密着し、多様な活動の展開の中に、そこに至るまでの経過と結びあわせ、未来を想定しながら「現在の<いま─ここ>」を読み解く。

エスノグラフィックな手法をべースとした「臨床的アプローチ」の地平を拓く意欲的実践。

【17】社会の教育システム
413010098Xの画像ルーマン,ニクラス【著】〈Luhmann,Niklas〉 / 村上淳一【訳】
2004/09 (東京大学出版会)

標準価格:税込\3,780    ISBN:9784130100984
★最晩年のルーマンが、自己のシステム理論の諸概念装置を明快に解説しながら、子供という媒質(メーディウム)と取り組む教育システムの特性を描く。初期から一貫して教育に関心を持ち続けたルーマンのシステム論、円熟の到達点。

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4.苅谷剛彦氏の著作から

【1】学力と階層―教育の綻びをどう修正するか
4023304050の画像苅谷剛彦【著】
2008/12 (朝日新聞出版)

標準価格:税込\1,890    ISBN:9784023304055
★深部で進む「教育の地殻変動」―

学力低下問題の第一人者として知られ、今秋からオックスフォード大学の教授になった著者が「学力と階層」「教育の綻び」について書いたものに書き下ろしを加えて、系統立ててまとめた本格的な教育論。

【2】教育再生の迷走
4480863907の画像苅谷剛彦【著】
2008/11 (筑摩書房)

標準価格:税込\1,680    ISBN:9784480863904
★教員採用試験での不正、教員免許制、小学校から始まる英語教育、全国学力調査。この国の教育はどこへ向かうのか? 政治にふり回される教育問題の本質をえぐる。

【3】教育の世紀―学び、教える思想 (シリーズ生きる思想〈7〉)
4335000596の画像苅谷剛彦【著】
2004/12 (弘文堂)

標準価格:税込\2,625    ISBN:9784335000591
★受験競争や学歴社会といった「選抜・選別の教育」はどのように現れ、そこにはどんな「思想」が埋め込まれていたのか?

近代社会における「平等と自由」の問題を、教育を機会と見なすアイデアの成立と変遷の過程にまでさかのぼって解明し、「個人」の形成という問題を、「自己」という概念の肥大化を参照しつつとらえ直す。

【サントリー学芸賞 受賞作!】

【4】階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ
4842085258の画像苅谷剛彦【著】
2001/07 (有信堂高文社)

標準価格:税込\3,990    ISBN:9784842085258
★だれの学ぶ力・意欲が落ちたのか!?
できるだけ実証的な研究をベースに、教育の場で進む階層化の実態とそのメカニズムとを解明。

教育というスクリーンに映しだされる日本社会の階層化の動きをとらえることによって、いま起こりつつある「階層と教育」の局面変化が、どのような影響を私たちの社会に及ぼしうるのかを知ることができるだろう。

【第1回大佛次郎論壇賞奨励賞受賞!】

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5.関連ブックフェアのご紹介
  新宿本店5階「じんぶんや」第五十一講 苅谷剛彦選 ― 曲がり角の教育を社会学する

★ 6/8より新宿本店5階にて、当テーマのフェアを開催しております。
東京近郊の方は、ぜひご来店ください。

 ◇開催場所 : 紀伊國屋書店新宿本店 5階カウンター前

 ◇会  期  : 開催中 〜 2009年7月7日

 ◇フェア詳細: http://bookweb.kinokuniya.jp/bookfair/prpjn511.html

 ◇お問合せ : 紀伊國屋書店新宿本店 03-3354-0131
           http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/01.htm

※「じんぶんや」とは―
  2004年9月から開始した「月替わりのテーマ、月替わりのプロの選者」を
  コンセプトにした、新宿本店人文書売場オリジナルの常設コーナーです。
  これまでの「じんぶんや」はこちらから
   ⇒ http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/jinbunya/jinback.htm

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