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【四つの批評の力―加藤典洋『文学地図』に寄せて】

(No.252 2009. 3.17配信号)



今回のe-Alert Plus!は、文芸評論家・早稲田大学国際教養学部教授加藤典洋氏の最新刊『文学地図―大江と村上と二十年』に寄せた特集をお送りいたします。どうぞご覧下さい。

※紀伊國屋書店新宿本店5階「じんぶんや」第四十八講
 「加藤典洋選 ― 四つの批評の力」も開催しております。
 ⇒ http://bookweb.kinokuniya.jp/bookfair/prpjn481.html

◇◆INDEX◆◇
 1.加藤典洋氏エッセイ―「四つの批評の力」
 2.『文学地図―大江と村上と二十年』
 3.緑色の区画 ― 現在の関心に沿う小説作品
 4.灰色の区画 ― 関心のうちにあり、時評にも扱った小説以外の批評・エッセイ
 5.緋色の区画 ― 近年の文芸時評で発見できたと思う若手・中堅の作品
 6.黄色の区画 ―「書きたくない」というわたしの一番深い気持ちに見合う外国の著作
 7.加藤典洋氏 主な著作から
 8.関連ブックフェアのご紹介
  新宿本店5階「じんぶんや」第四十八講 加藤典洋選 ― 四つの批評の力

Books
1.加藤典洋氏エッセイ―「四つの批評の力」


批評というのはさまざまな夢をもりこめる容器だと思う。
これまでも、さまざまな人が、ずいぶんと変わった夢をそこに盛ってきた。

わたしが批評に最初に見た夢は、「本を読まない」で「書く」ということだった。「ただ考える」ことで、どこまでいけるか。それをわたしは、単独登攀のラインホルト・メスナーに託して語ったことがある。

「本を読む」、しかしそこで得たものをすべて捨てて「書く」。しかし批評は、むろん、「本を読む」ことでもある。はじめに、そのことがある。それから、それへの否定が生まれてくる。批評のうちには、「本を読みたい」という気持があり、「本を読みたくない」という気持があり、「何かを書きたい」という気持があり、「何も書きたくない」という気持がある。

この四つの気持、それがわたしに批評を書かせてきた四つの動力だ。

今回上梓した本、『文学地図―大江と村上と二十年』(朝日新聞出版)には、これまで行った三回の文芸時評と、そこから考えた文が入っている。これを、一個のテーブルに見立て、そこに本を並べてみよう。これが今回の展示の考え方である。

テーブルには、四つの区画がある。一つ目は、緑色の区画で、村上、大江から保坂、阿部まで。現在のわたしの関心に沿う十三冊の本。

二つ目は、緋色の区画で、近年の文芸時評で自分なりに発見できたと思う十七冊の若手、中堅の小説家の作品。(*本号では、5.)

三つ目は、灰色の区画で、いまわたしの関心のうちにあり、時評等にも扱った九冊の小説以外の批評、エッセイなど。

そして最後が、黄色の区画で、そのうちのほとんどは時評には出てこなかったが、「書きたくない」というわたしの一番深い気持に見合う、いま手元にある、十冊(十タイトル)の外国の書き手の著作を、選んでいる。

合計四十九タイトル。テーブルを一望しただけでは、何も出てこない。でも本とはそもそも、そういうものである。

■加藤典洋(かとう・のりひろ)氏プロフィール
 1948年山形県生まれ。文芸評論家。早稲田大学国際教養学部教授。
 85年『アメリカの影』(講談社/現在、講談社学術文庫)を刊行後、文芸評論家にとどまらず風景論、日本という共同体、戦後の精神史的な諸相をめぐって独自の批評を展開。

※今回のe-Alert Plus!では、これらを再構成(抜粋)しております。
 全体をご覧になりたい方は、以下をご覧ください。
 ⇒ http://bookweb.kinokuniya.jp/bookfair/prpjn481.html


Books
2.『文学地図―大江と村上と二十年』

【1】文学地図―大江と村上と二十年 (朝日選書)
4022599502の画像加藤典洋【著】
2008/12 (朝日新聞出版)

標準価格:税込\1,680    ISBN:9784022599506
★「大江か村上か」から「大江と村上」へ。1980年代後半以降、なぜ二人の評価をめぐって日本の文学地図は二分されたのか?両者の関係を追尾、二人の初期作品の近似を明らかにし、新しい日本文学の基軸を提示する。

また、いま文学の内と外で何が起こっているのか?2004年以降頻出する「親殺し」を予見したかのような、互いに酷似する「親殺し」の小説とマンガ―沢木耕太郎『血の味』、村上春樹『海辺のカフカ 上 (下)』、岩明均『寄生獣』に新概念である「関係の原的負荷」の露頭を見、小説でなぜいま「主人公」の「一」という単位が壊れ、現実でなぜいま「子」という存在論的様態が壊れなければならないか、その背景の構造を読み解く、待望の本格文芸評論集。

Books
3.緑色の区画 ― 現在の関心に沿う小説作品

【1】中国行きのスロウ・ボート (中公文庫) 中国行きのスロウ・ボート;貧乏な叔母さんの話;ニューヨーク炭鉱の悲劇;カンガルー通信;午後の最後の芝生;土の中の彼女の小さな犬;シドニーのグリーン・ストリート (改版)
412202840Xの画像村上春樹【著】
1997/04 (中央公論社)

標準価格:税込\599    ISBN:9784122028401
☆村上春樹の最初の短編集で、原型的な作品が収められている。「ニューヨーク炭坑の悲劇」は、昔読んだきり、忘れていて、英訳の短編集に収められたのを機に再読したが、その奥行きに一驚を喫した。概して村上は短篇によいものが多いが、他の短篇もよい。村上の原点がここにある。(加藤)


【2】日常生活の冒険 (新潮文庫)
4101126062の画像大江健三郎【著】
2007/09 (新潮社)

標準価格:税込\660    ISBN:9784101126067
☆昔、大江健三郎も十分に軽薄で、読んで面白かった。わたしはこの小説を読んで、大江のファンになった。大昔、一九六三年、十五歳のとき。何しろこの本を雑誌連載、ついで、新刊で読んだのだ。作中主人公格の斎木犀吉のモデルになった伊丹十三はもういないが、小説の輝きは、いまも消えない。(加藤)


【3】ニッポンの小説 百年の孤独
416368610Xの画像高橋源一郎
2007/01 (文藝春秋)

標準価格:税込\2,349    ISBN:9784163686103
★誰も近づかなかった文学のタブー、ニッポンの小説の奥底に秘められた核心部分に迫った力作。小説とは何か? いや、そもそも言葉とは何なのか? 国木田独歩『武蔵野』、夏目漱石『夢十夜』から「JJ」、希代の奇書『うわさのベーコン』に中沢新一の芸術人類学まで。

【4】小説の自由
4103982055の画像保坂和志【著】
2005/06 (新潮社)

標準価格:税込\1,785    ISBN:9784103982050
★誰よりも小説を愛している小説家が、自作を書くのと同じ注意力で、実際の作品を精密に読んでみせる、驚くべき小説論。

【5】シンセミア〈1〉 (朝日文庫)
4022643773の画像阿部和重【著】
2006/10 (朝日新聞社)

標準価格:税込\525    ISBN:9784022643773
シンセミア〈2〉 (朝日文庫)
4022643781の画像阿部和重【著】
2006/10 (朝日新聞社)

標準価格:税込\525    ISBN:9784022643780
シンセミア〈3〉 (朝日文庫)
402264379Xの画像阿部和重【著】
2006/11 (朝日新聞社)

標準価格:税込\525    ISBN:9784022643797
シンセミア〈4〉 (朝日文庫)
4022643803の画像阿部和重【著】
2006/11 (朝日新聞社)

標準価格:税込\525    ISBN:9784022643803
☆ポストモダン思想からインターネット世界へと動いた書き手として、阿部和重と東浩紀がいる。両者はこの後、別れる。この小説が何を実現したのかはまだよくわかっていないが、何を「そぎ落とした」のかは、はっきりしている。近代小説の核心だった、主人公の単一性。今後ますます、この作品の「そぎ落とし」の意味がはっきりしてくるだろう。(加藤)

Books
4.灰色の区画 ― 関心のうちにあり、時評にも扱った小説以外の批評・エッセイ

【1】メモランダム 古橋悌二
4898150381の画像ダムタイプ【企画】
2000/12 (リトル・モア)

標準価格:税込\2,310    ISBN:9784898150382
☆ダムタイプという演劇集団の創始者をめぐる回想、断章を集めた。部屋でいえば窓のない、温度の低い密閉型の空間が、いまの日本社会のうちに、四角く、沈められている。核廃棄物のように。(加藤)


【2】私家版・ユダヤ文化論 (文春新書)
4166605194の画像内田樹【著】
2006/07 (文藝春秋)

標準価格:税込\787    ISBN:9784166605194
★ノーベル賞受賞者を多数輩出するように、ユダヤ人はどうして知性的なのか。
そして「なぜ、ユダヤ人は迫害されるのか」。サルトル、レヴィナスらの思想を検討しながら人類史上の難問に挑む。(第6回小林秀雄賞受賞作)

【3】ものぐさ精神分析 (中公文庫) (改版)
4122025184の画像岸田秀【著】
1996/01 (中央公論社)

標準価格:税込\919    ISBN:9784122025189
☆いつもこの本に戻る。泉のようにこんこんといつまでも元気のもとが湧いて出ている。その奥底に何があるのか。「わたしの原点」に書いてある。(加藤)


【4】親殺し
4757141920の画像芹沢俊介【著】
2008/10 (NTT出版)

標準価格:税込\1,470    ISBN:9784757141926
★あなたは子どもを「殺して」いませんか? 最近の親殺し事件、秋葉原事件がなぜ起きたのかを、「教育家族」「離婚」「対人関係」等の要因から解き明かし、親のあり方や救済(=更正)について考える。

【5】小林秀雄の恵み
4104061107の画像橋本治【著】
2007/12 (新潮社)

標準価格:税込\1,890    ISBN:9784104061105
★本居宣長こそ、日本における「学問する」知性=近代の始まりだと小林秀雄は考え、その宣長に自分を重ね、ひそかに生涯を振り返ったのではないか?
37歳で読んだこの本に震えるほど感動したことが、日本の歴史・古典と格闘する作家、橋本治を生みだした。小林秀雄という存在を、人生に「学問」という恵みを与えてくれる人として新たに読み解いてゆく愛のある論考。

【6】日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で
4480814965の画像水村美苗【著】
2008/11 (筑摩書房)

標準価格:税込\1,890    ISBN:9784480814968
☆時代を象徴する本。最後は、教育論になっているが、わたしには、そこを離れて、二重言語使用者たることの可能性について、考えさせてくれた。(加藤)

Books
5.緋色の区画 ― 近年の文芸時評で発見できたと思う若手・中堅の小説作品

【1】佐藤泰志作品集
490668128Xの画像佐藤泰志
2007/10 (クレイン)

標準価格:税込\3,465    ISBN:9784906681280

【2】オブ・ザ・ベースボール オブ・ザ・ベースボール;つぎの著者につづく
4163267301の画像円城塔【著】
2008/02 (文藝春秋)

標準価格:税込\1,200    ISBN:9784163267302

【3】失われた町
4087748308の画像三崎亜記【著】
2006/11 (集英社)

標準価格:税込\1,680    ISBN:9784087748307

【4】長い終わりが始まる
4062147874の画像山崎ナオコーラ【著】
2008/06 (講談社)

標準価格:税込\1,260    ISBN:9784062147873

【5】君は永遠にそいつらより若い
4480803947の画像津村記久子【著】
2005/11 (筑摩書房)

標準価格:税込\1,470    ISBN:9784480803948

【6】犬身
4022503351の画像松浦理英子【著】
2007/10 (朝日新聞社)

標準価格:税込\2,100    ISBN:9784022503350

【7】窓の灯 (河出文庫)
4309408664の画像青山七恵
2007/10 (河出書房新社)

標準価格:税込\441    ISBN:9784309408668

Books
6.黄色の区画 ―「書きたくない」というわたしの一番深い気持ちに見合う外国の著作

【1】孤独の発明 (新潮文庫)
410245103Xの画像オースター,ポール【著】〈Auster,Paul〉 / 柴田元幸【訳】
1996/04 (新潮社)

標準価格:税込\579    ISBN:9784102451038
☆最近、急速にひかれている書き手。フランス文学の読み手で、詩を書き、批評に手を染めた後に、小説を書いた。その散文の広がり、後背地の深さに驚いています。この本(『トゥルー・ストーリーズ』)は、事実に基づく。次の『孤独の発明』も、厳密にいえば、小説ではないかもしれない。他に絶版の『空腹の技法』があり、これもすばらしい。すべて柴田元幸訳。(加藤)


【2】調書
4105106155の画像ル・クレジオ,J.M.G.【著】〈Le Cl´ezio,J.M.G.〉 / 豊崎光一【訳】
2008/11 (新潮社)

標準価格:税込\2,100    ISBN:9784105106157
異邦人 (新潮文庫) (改版)
4102114017の画像アルベ−ル・カミュ / 窪田啓作
1996/05 (新潮社)

標準価格:税込\420    ISBN:9784102114018
☆『調書』と『異邦人』。ともに、ノーベル賞受賞作家の作品だが、わたしのなかでは、どうしても、これらの作品とノーベル賞が結びつかない。ともに二〇代に書かれた。ノーベル賞というものに、どこか、欠陥のあることを、教える。(加藤)


【3】バートルビーと仲間たち
4105057715の画像ビラ=マタス,エンリーケ【著】〈Vila‐Matas,Enrique〉 / 木村榮一【訳】
2008/02 (新潮社)

標準価格:税込\1,995    ISBN:9784105057718
バートルビー―偶然性について
4901477188の画像アガンベン,ジョルジョ【著】〈Agamben,Giorgio〉 / 高桑和巳【訳】
2005/07 ((調布)月曜社)

標準価格:税込\2,520    ISBN:9784901477185
☆ともに、ハーマン・メルヴィル『バートルビー』をめぐる本。一方は、小説。他方は、哲学書。「何もしないこと」の意味をめぐる二様の思考と書式。そう、ここだ。ここに、何かがある。(加藤)


【4】不穏の書、断章
4783724369の画像ペソア,フェルナンド【著】 / 沢田直【編訳】
2000/11 (思潮社)

標準価格:税込\2,520    ISBN:9784783724360
☆意味がはっきりしないことの根源には、何があるのだろうか。誰にもわかられないまま、行方不明になること。(加藤)


Books
7.加藤典洋氏 主な著作から

【1】太宰と井伏―ふたつの戦後
4062139405の画像加藤典洋【著】
2007/04 (講談社)

標準価格:税込\1,575    ISBN:9784062139403
★なぜ、戦後を生きられなかったの?『敗戦後論』から11年―。
のうのうと生きる人の場所から、思いつめ、死んだ人のことを考えたい。

太宰はなぜ、“死”を選んだのか?太宰は、三島は、川端は、戦後、なぜ死ななければならなかったのか。井伏はなぜ、戦争を描いたのか。

【2】言語表現法講義 (岩波テキストブックス)
4000260030の画像加藤典洋
1996/10 (岩波書店)

標準価格:税込\2,415    ISBN:9784000260039
★言葉を書くということは、よりよく考えるための、自分と向かい合うための1つの経験の場だ。このことは、同時に批評の方法へとつながっていく。
これまでの文章教室とは異なるユニークな講義。

★「うざったさの批評」(東京大学(英米文学)・阿部公彦氏の書評)
 批評の方法に関心があるという学生さんがやってきたら、筆者がまず推薦するのはこの本である… (続きは、以下からご覧ください)
 ⇒ http://booklog.kinokuniya.co.jp/abe/archives/2008/05/post_25.html

【3】アメリカの影―戦後再見 (講談社学術文庫)
4061591827の画像加藤典洋【著】
1995/06 (講談社)

標準価格:税込\1,050    ISBN:9784061591820
★高度成長期のアメリカ依存の精神的構図を捉えた江藤淳の文芸評論『成熟と喪
失』および一連の占領研究におけるその思想的道程の検証から「戦後日本とアメリカ」を問い直さんとする。

原爆投下と無条件降伏をめぐる問題、占領下の新憲法制定経過など、戦後の原点となった事実を精細に論考した野心作。

Books
8.関連ブックフェアのご紹介
  新宿本店5階「じんぶんや」第四十八講 加藤典洋選 ― 四つの批評の力

★ 3/9より新宿本店5階にて、当テーマのフェアを開催しております。
東京近郊の方は、ぜひご来店ください。

◇開催場所 : 紀伊國屋書店新宿本店 5階カウンター前

 ◇会 期  : 開催中 〜 2009年4月上旬

 ◇フェア詳細: http://bookweb.kinokuniya.jp/bookfair/prpjn481.html

 ◇お問合せ :紀伊國屋書店新宿本店 03-3354-0131
       http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/01.htm

※じんぶんやとは―
  2004年9月から開始した「月替わりのテーマ、月替わりのプロの選者」を
  コンセプトにした、新宿本店人文書売場オリジナルの常設コーナーです。
  これまでの「じんぶんや」はこちらから
   ⇒ http://www.kinokuniya.co.jp/04f/d03/tokyo/jinbunya/jinback.htm

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