商品詳細
哲平と美沙緒の夫婦にとって、この引っ越しは新たな門出となるはずであった。
築後わずか8カ月のマンション。
陽当りの良い15畳のリビング。
独立した台所。
そして、娘・玉緒の幼稚園まで歩いて10分、哲平の勤務地まで乗り換えなしというのが、何よりの魅力だった。
平和で健全な生活を望む家族に何の不足があるというのだろう。
たとえ、目前に広大な墓地がひろがり、背後を寺と火葬場に囲まれていようと―。
凶変は引っ越しの翌朝に始まった。
文鳥が死んだ。
TVには虚影が映る。
やがてマンションは、まるで生きものの如く家族を常闇の奈落へと誘う。
極限状況の中に顕現してゆく人間の生理と変貌してゆく心理とを見事に描く、書下しモダン・ホラー小説。