内容説明
時は江戸。作事奉行・上月監物(こうづきけんもつ)の一人娘は、母が眠る墓所に現れたという、ある男を探していた。
彼岸花を深紅に染め付けた着物を纏い、身も凍るほど美しい顔のその青年は、この世に居るはずのない男だった――。
一方、青年の出現を知った監物は、この騒動が過去の悪事と関りがあるのではと警戒する。
いくつもの謎をはらむ幽霊事件を解き明かすべく、憑き物落としを行う武蔵晴明神社の宮守・中禪寺洲齋洲齎が監物の屋敷に招かれる。
謎に秘された哀しき真実とは? 歌舞伎の舞台化のために書き下ろされた、長編ミステリ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
219
京極 夏彦は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。本書は、歌舞伎の舞台化のために書き下ろされたとのこと、この8月に上演されています。 https://www.kabuki-bito.jp/news/9051 https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g322404000289/2024/08/13
ちょろこ
102
歌舞伎ミステリの一冊。いつもの憑き物落としミステリががっつりくるディナーだとしたら、こちらはランチのようにお手軽に楽しめる、歌舞伎演目のために描かれた作品。舞台は江戸のお屋敷。死んだはずの男が彼岸花の着物を纏い現れたというお屋敷幽霊騒動を中禪寺洲齋が解き明かすストーリー。死人花、地獄花…彼岸花の別名にマッチした展開で怖さと謎がどんどん目の前に差し出されていく感覚で一気に読めた。謎の解け方はシンプルかつ驚き感もあるのがいい。対して絡みあう縁が複雑に色濃く読ませてくれた。歌舞伎で観たい幕開けと幕閉じも印象的。2024/12/01
Richard Thornburg
92
感想:★★★★★ 「京極夏彦×歌舞伎 新作書き下ろし」と帯に書いてありましたが、百鬼夜行シリーズなどと比較すれば歯切れもテンポもよくてスピード感のある印象です。 彼岸花の呼び名をいろいろと挙げながら、その呼び名をテーマにして事件が進行していく感じです。 9篇に区切られているのですが、人死にはわんさか出てくるし、悲しかったり切なかったりする侘び寂び感も満載です。 ラストの落としどころで「そうきましたか!」ってところがあるんですが、そこは読んでからのお楽しみってことで。 オススメの一冊です。2024/10/24
keroppi
74
歌舞伎のために書き下ろされた小説だそうだ。タイトルの「狐花」は、曼珠沙華の別名。各章のタイトルも、「死人花」「墓花」「彼岸花」……と、曼珠沙華の別名で構成されている。なんとも不吉な別名である。Wikipediaを見ると、1000以上の別名があるとか。一つの花が、様々名前を持つように、一つの事件は、様々な様相を見せてくる。世に摩訶不思議なことはなく、人が不思議と思うだけ。曼珠沙華は美しい花を咲かすが、花自身には不吉な思いなどないのだ。2024/09/27
HANA
74
京極夏彦と歌舞伎のコラボ原作。そのためか著者にしては割とストレートな粗筋となっている。その分見せ場も十分だが。登場人物が隠したかった「あること」を最後まで引っ張りながらも、それに関係した人間が一人また一人と死んでいく様は、四谷怪談を代表とする江戸期の怪談を思い起こさせるし。江戸怪談に共通するある事を起点としての因果ものなのもそれに輪をかけているなあ。曼殊沙華の着物に代表されるようなイメージの美しさや、重要な男女が実は××だったという歌舞伎ならではのエピソード、仕掛けもあり、舞台を見てみたかった一冊でした。2024/08/28