内容説明
知人の老女がひったくりに遭う瞬間を目にした大学生の春風は、その場に居合わせた高校生の錬とともに咄嗟に犯人を追ったが、間一髪で取り逃がす。犯人の落とし物に心当たりがあった春風は、ひとりで犯人探しをしようとするが、錬に押し切られて二日間だけの探偵コンビを組むことに。かくして大学で犯人の正体を突き止め、ここですべては終わるはずだった──。《本の雑誌》が選ぶ2020年度文庫ベスト10第1位『パラ・スター』の著者が、〈犯罪と私たち〉を真摯かつ巧緻に描いた力作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
337
一見、”学園モノ?”を思わせるようなどこか軽いタッチで始まる物語が、突然、社会問題化もされている超重量級の『犯罪』に光を当てていくこの作品。そこには、全く立場の異なる二人の女性視点による”壮大なミステリ”が描かれていました。まるで”純文学”を思わせるような書名と表紙に抱くイメージからどこか大きくズレた登場人物たちが繰り広げる極めてアンバランスなこの作品。そんな物語のその先に、強烈な光と対になるように漆黒の闇が顔を出す絶妙な構成のこの作品。書名と表紙の強いインパクトがいつまでも尾を引く素晴らしい作品でした。2023/05/06
bunmei
274
ミステリーとして次への展開に興味を抱かせ、とても練り込まれた作風。詐欺をモチーフにした闇の世界の中に、一筋の優しさや大切なものを差し込み、読後に余韻を残すミステリーに仕上がっている。周囲は輝いて見えるのに、その中心は闇に閉ざされた、人の相反する心理を『金環日蝕』と表題しているのだろう。路上で近隣の老女のひったくり事件を目撃した春風と錬。貧困により、カガヤという謎の男にいつの間にか詐欺の片棒を担がされていく女性。その2つの事案が次第に交錯し、それまでの全ての事案が、必然となって結びつき、謎が明かされていく。2022/12/24
いつでも母さん
181
いやいや、ひったくり犯を追いかけるって、実際にも時々ニュースになったりするけれど危ないよ・・(って、そこじゃない)そんな物語の始まりだった。正直言ってちょっと長く感じた。これは詐欺指南小説?とも思えたが、そう簡単には上手く行かないと思うものの、人がいる限り騙し騙されるって無くならないのだろうな。手を変え品を変え新たな詐欺が湧いてくる社会に生きてる私たち。終章で「消えてほしくない人と、ちゃんと目を合わせていられる自分でいろ。」というところがあったがそこだと思う。ただ、私にはちょっと今一つな感じだった。 2024/01/27
hiace9000
167
『金環日蝕』…眩い太陽光を月の陰が遮る刹那。天と地ほどの振り幅で各章を明暗のコントラストで描き、やがて交錯する2つの事件が見せた闇に沈んでいた真相とは…。人間の顔はひとつではない。今、自分が見ているその顔が真実か否かは、実はわからない。人間に内在するであろう、騙す欺くという本源的な性や欲求。日常に潜む不穏さを日蝕の闇の中から炙りだし、二重三重の構えで人間ドラマミステリーに紡ぎ上げる。時あたかも特殊詐欺・連続強盗事件容疑者逮捕の報が巷を席巻。タイムリーさとも相まって、シーズンベスト・ミステリー作品になった。2023/02/11
しんたろー
155
阿部暁子さん初読み。大学生・春風と高校生・錬、ひょんな事からコンビを組むことになった二人の青春ドラマチックな探偵ものかと思う序盤から、段々と特殊詐欺が絡んだ社会派サスペンスになっていって、先が気になる展開。もう一人の主役・理緒が巻き込まれてゆくストーリーは切なく哀しい。 二本軸の話が一本に集約されて進む後半も面白く読めた…が、ミステリとしてもサスペンスとしても中途半端に感じたのは何故だろう?人物描写は悪くないし、盛り込まれたテーマも判るが…彼らの思考と行動が、ひねたオジサンには青臭く感じたからかな(苦笑)2023/06/07