内容説明
第29回松本清張賞受賞作。
ファンタジー界に新星誕生! 突然の災厄の先に希望はあるのか―――。
草原に額縁を立て、その中で演手たちが鮮やかな物語を繰り広げる――。
遊牧の民アゴールは、その伝統を「生き絵」と呼んで愛していた。物語を作り、演出を手掛ける「生き絵師」のマーラは、若くして部族長たちの前で生き絵を披露する役目に大抜擢される。だが、その矢先に突然の悲劇が。“動くもの”が、全ての人々に見えなくなってしまったのだ。そんな世界で、もはやマーラの「生き絵」は無力なのか。そして、遊牧が困難になったアゴールの民の運命は。
現実が想像力を凌駕しても、芸術は無力ではない――東山彰良
多くの読者が、きっと自分の「今」を見いだせる小説だ――辻村深月
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hiace9000
93
圧巻のデビュー作にして松本清張賞。過去か未来か、既視感を覚えるも国籍すら判明つかぬ緻密にして巧みに創り込まれた世界観。これには宮崎駿も唸るに違いない。さらに高い文学性を裏支えする独特の文章表現技能と深いメッセージ性。コロナのコの字も出さずに、ポストコロナの世界と、苦悩苦闘する芸術家・表現活動の在り方をこれほど見事に投影して描く作品を未だ知らない。異世界ファンタジー小説ながら、ストーリーで読ませる以上に、厄災に見舞われた人間の苦悩や葛藤を「生き絵」「奇術」を通して描き、深く濃く読みこませる作品となっている。2022/09/29
ゆみねこ
68
羊を放牧する草原の民と町に定住する民。昔のモンゴルを想像出来るような世界観。この地で暮らすすべての民を襲った悲劇、動くものが見えなくなる奇病。草原に額縁を立て、その中で演手たちが鮮やかな物語を繰り広げる「生き絵」の物語を作り演出を手掛けるマーラの絶望。マーラたちアゴールの民に仕掛けられた陰謀。「生き絵」を想像しながらの読書。松本清張賞受賞作、天城光琴さん、初読み。2024/03/05
よこたん
46
“私は、もう元通りにならない世界を生きることにします。何が不自由なのかは、環境ではなく、私の心で決めたいので” 動くものが見えなくなるという、突然の厄災に見舞われた地域。町の暮らしも、遊牧の暮らしも、たちまち立ち行かなくなる。人々の心を躍らせる芸術や遊興も、同じく。流行り病でもないが故に、元に戻す術もない。人は、こんな常ならぬ状況に巻き込まれたとき、どう先を見据えて生きていくのか。芸術は無力な存在でしかないのか。悲しみと諦めに包まれつつ、もがき続けることをやめない意味は。第29回松本清張賞受賞作。2022/08/29
rosetta
27
★★☆☆☆せっかくデビューした若い才能(1997年生まれ)を腐すのは心苦しいが、読んでいる間ずっと違和感と気持ち悪さを感じていた。 松本清張賞ではなくてファンタジーノベル大賞なら少しは印象が違ったかも知れないが、この賞を与えた選考委員の能力にも疑問を抱く。好きな作家が揃っているのだけれど。 2022/09/05
信兵衛
26
本ストーリィには新鮮さを感じますが、もうひとつリアル感を味わえなかったところが少々残念。 その辺りは、今後の作品に期待したいと思います。2022/08/20