内容説明
若隠居した大店の跡取り息子・孫一郎は、人魚のおたつに求婚されてしまう。諦めさせるためにも、おたつにねだられるままに御伽話を語る孫一郎だったが、次第にその心は変化していく。しかし、人魚と人間がともに暮らせる未来があるわけでもなく……。「これ以上のラストはない」と選考委員を唸らせた驚嘆の受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
よこたん
45
“ねえ、おたつ。お話をしてあげようか。人と人じゃないものが夫婦になる、そんなお話” 人と鯉じゃあ夫婦にはなれないよと、諦めさせるつもりで語る物語を共に聞く。人魚の肉の話にどきり。上半身女の子で腰から下が鯉のようなおたつは、人魚ではないのかと思っていたら、育った後の姿にもっと驚かされた。表紙の雰囲気に騙されてはいけない。異類婚の先に待ち受ける残酷さと哀しみが重くのしかかる。請い願う愛の形が噛み合わない、どうしようもなさ。当事者同士が幸せならばいいのかなと思いつつも、この結末、よく受け入れたなと。うーん強烈。2022/08/11
りー
30
美しくもおぞましく、そして愛しい異種婚姻譚、詰め合わせ。知っている筈のお話もアレンジされて読み心地良い文章で書かれると、とても新鮮な味わい。鯉姫の歯が脳内で視覚化されて怖かった。2022/10/29
信兵衛
22
孫一郎とおたつの関係は、ハッピーエンドを迎えることができるのか。いや、これをハッピーエンドということができるのか。 いずれにせよ、異類婚とは通常の結婚の形からはかけ離れたものになる、ということなのでしょう。2022/07/30
鯖
21
若隠居した孫一郎は屋敷の池に棲まう人魚おたつに請われるまま、数多の異類婚姻譚な昔話を語り続ける…という入れ子構造な連作集。異類婚姻譚フェチにとってのバイブルですね。つうか、より暴力に物を言わせるポニョじゃねえかこれ。ポニョはまだマシだったんだなあ、ほえ~ってため息ついちゃった。なんか異類婚姻譚てチョウチンアンコウのオスメスになりがちなところあるよね…。婚姻の形、幸せの形は生きとし生けるものそれぞれ。代理母より先に、日本でも様々な婚姻の形が認められますように。2022/09/02
そうたそ
15
★★★☆☆ 人魚のおたつに求婚された大店の息子・孫一郎。諦めさせるために、様々なおとぎ話を語るものの――。デビュー作とは思えない整った文章で非常に読みやすい。作中作として語られる様々な形の異類婚姻譚もまた面白かった。子供の頃の昔話を読んでいた時のような懐かしい気持ちが思い出される。一方で、作中作に割かれる部分が多く、肝心の孫一郎とおたつの話をもうちょっと読みたかったという気がしないでもない。とはいえ、デビュー作としては上々の出来。今後の作品も楽しみになった。2022/10/05