内容説明
乗機B-17を撃墜され、毛沢東治世下の敵国に落下した、台湾空軍スパイ。彼は飢餓の大陸から奇跡の帰還を果たす。そう、これは私の血族の話だ。中国、台北、東京。幾つもの煉獄を遍歴する男と彼をモデルに小説を書く作家――二人の男の運命が交じりあう。恋そして冒険。東山彰良の黄金期を告げる圧倒的長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
186
東山 彰良は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。「流」の系統の夢の中の私小説、エンタメとして読みましたが・・・ 我々の世代で怪物と言えば、やはり『怪物くん』です(笑) https://www.shinchosha.co.jp/book/334653/2022/02/28
みっちゃん
149
自死した叔父を描いた小説『怪物』が、作者の主人公も自らを物語の登場人物のように感じる。どこまで現実で、どこから虚構なのか。それともこれは只の夢なのか。それらがお互いに侵食し合うような不安定な中で語られる、台湾と中国の間に横たわる複雑な歴史。彼が不倫の果てにとんでもない事件で失恋して、虚脱感に囚われるのに下半身の欲求に逆らえない愚かさを笑いながら愛おしいとも感じる。声を限りに叫びながらひたすらに走る、作中作のラストではないあの場面で物語を終わらせる処がすごく良い。これはやっぱり生き直しの物語なんだと思った。2022/04/21
みどどどーーーん(みどり虫)
129
著者は最初に言う、"この物語は著者の夢で、それでも読むなら自己責任だ"って。おいおい…。まぁ気負わず気楽に読もうじゃないの、とページを捲れば、あっという間に翻弄される。これが夢…?全てが夢…?夢の中の現実の小説の中の……?いくつもの言葉やエピソードがとても良くて、それらの場面は次々と鮮明に浮かぶ。クリストファー・ノーランの影響丸出しのような私の脳内映像がめっちゃ喜んでる。作家の物語であり、男と女の物語であり、そしてそう、これは夢。すごく好みの一冊。自己責任で言いますが、東山彰良の既読本で一番良い!好きだー2022/03/10
ずっきーーーん
100
わたしにとって東山彰良と最高は同義語である。在日台湾人の作家とその著作『怪物』が夢かうつつかとばかりに入り乱れながら進む物語。しかも初っぱなに夢オチであると宣言し、ネタ割れで挑んでくるんである。マジックリアリズムかと思えばちゃんと付合し、油断してると惑わされる。痺れる筆致、どう転がるのか予想もつかせない展開。ああ、読む喜びが途切れない。愛と自由に泣き笑いし、冒険譚に胸が踊る。ジャンルでは括れない作家さんとはいえ、よくぞここまでぶちこめるもんだなあ。東山彰良全部入りみたいな贅沢な逸品。むろん年ベス入り♪2022/02/23
pohcho
54
「流」は父をモデルにした小説だったが、今作は叔父の話。と言っても、主人公は東山さんを投影した作家。作家は叔父をモデルに「怪物」という小説を執筆。「怪物」とは台湾スパイだった叔父が、毛沢東統治下の中国大陸で出会った民兵のボスのこと。小説の中の叔父は怪物の命で二百人の農民を殺し、怪物を撃ち殺して逃げ出すのだ。やがて現実では、怪物についての新事実が発覚し、作家の生きる今は悪い冗談のような成り行きに。どこまでが現実で何が虚構なのか。最後は物語に救われた。面白かった。2022/05/13