内容説明
【第165回芥川賞候補作】ある日、夫が風呂に入らなくなったことに気づいた衣津実。夫は水が臭くて体につくと痒くなると言い、入浴を拒み続ける。彼女はペットボトルの水で体をすすぐように命じるが、そのうち夫は雨が降ると外に出て濡れて帰ってくるように。そんなとき、夫の体臭が職場で話題になっていると義母から聞かされ、「夫婦の問題」だと責められる。夫は退職し、これを機に二人は、夫がこのところ川を求めて足繁く通っていた彼女の郷里に移住する。川で水浴びをするのが夫の日課となった。豪雨の日、河川増水の警報を聞いた衣津実は、夫の姿を探すが――。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
402
第165回芥川龍之介賞受賞作&候補作第四弾(4/5)は、候補作三作目です。今時の病んでいる夫婦のリアル、ゾクゾクしながら次の展開を期待して一気読みでした。既読四作品の中では、現状MyBestです。病気とは言え、毎日朝のシャワーと夜のお風呂を欠かせない私としては、何か月もお風呂に入らないのは、信じられません。 続いて、ラストの受賞作『彼岸花が咲く島』へ。 https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/mizutamari/2021/08/13
さてさて
306
『夫が風呂に入らなくなった』。そんな目の前の動かし難いまさかの現実の先に、妻・衣津実の狂おしく揺れ動く内面がこれでもかと描かれていくこの作品。そこには、夫の急な変化に戸惑う衣津実視点の物語が描かれていました。芥川賞候補作らしい比喩表現の登場にニンマリするこの作品。『風呂に入らなくなって』○か月という描写のリアルさに思わず息を止めたくもなるこの作品。次作で芥川賞を受賞される高瀬隼子さんが描く、なんともシュールで不思議感漂う物語の中に、読む手を止めることのできない密度感のある描写が心に残る、そんな作品でした。2023/06/20
いっち
217
夫が風呂に入らなくなった。水がくさかったり、痛かったりするらしい。夫の身体を洗う水の種類が、ミネラルウォーター、雨水、川へ変わっていく。主人公と夫は二人暮らし。夫は仕事を辞め、川の近くの田舎に引っ越す。主人公も一緒に住むため仕事を辞める。嫌な仕事から解放された夫が、田舎で自分を取り戻す話かと思ったが、そんな単純ではなかった。謎が残される(詳しくはコメント欄のリンクに記載)。残される謎の必要性を、私は感じなかった。物語の視点は主人公で、主人公の主観で描かれるのだが、三人称で語られる理由はなぜだろうと思った。2021/07/12
zero1
168
芥川賞候補(後述)。東京に住む30代の共働き夫婦。話は妻の視点で展開。ある日、夫が風呂に入らなくなる。水の臭いが気になるという。当然、身体からは悪臭が。不思議なことに心療内科を受診せず、夫婦間で話し合いもしない。主人公が私の妹なら離婚させる。妻の言動は優しさや愛情でなく、単なる優柔不断にしか思えない。妻の実家や飼ってた魚(隠喩?)がカットバックで入るものの無駄に長い。結末は、どのようにも解釈可能。私が選考委員でも推さない。唯一、推した平野の思考は理解しがたい。2023/06/21
おしゃべりメガネ
159
かなりへヴィな読書体験となりました。とあるコトがきっかけで突然夫が風呂に入らなくなる話。好き嫌いや、得意不得意が人それぞれあると思いますが、私には正直かなりキツい作風でした。とにかく夫が風呂に入らず、日時が経過していく様子がリアルに綴られ、作品を楽しむ前にその描写にひたすら嫌悪感をもってしまい、薄めのボリュームとは裏腹に衝撃度はかなりのインパクトがありました。妻も妻でもう少し夫に対してフォローがあってもいいのではと思いつつ、改めて所詮夫婦は結局は他人なんだなと思い知らされた気がします。いや、まいりました。2021/10/17