内容説明
第一詩集で中原中也賞を受賞した注目詩人による、初めての小説集。
児童養護施設に暮らす小学5年生の集(しゅう)。園での年下の親友・ひじりとの楽しみは、近くの淀川にいる亀たちを見に行くことだった。温もりが伝わる繊細な言葉で子どもたちの日々を描いた表題作と、小説第一作「膨張」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
信兵衛
31
子どもの心は単純と思われがちですが、大人と変わらず、場合によっては大人よりもっと深く、繊細なのかもしれないと感じさせられます。2021/07/15
遠い日
12
表題作ともう一篇「膨張」。児童養護施設で暮らす集と親友ひじりの日々。大人の世界を垣間見ながら、自分たちの世界を広げていく。意識の及ぶところは子どもの方が鋭い見方をするのかも知れない。大人がよく考えもせずに押し付ける言動を、集たちは嗅ぎ取っている。度々亀を見にいくシーンはいい。息苦しい日常の解放だ。時として唐突に現れる詩の表現にぎょっとしながら読んだのは「膨張」。アドレスホッパーという暮らし方を選んだのは、同性の恋人千里との自由な関係を保つためだったのか?裏切りと嫉妬はどこにでもあるのだ。胡散臭い倒錯の味。2021/10/04
みずいろ
11
「一瞬でも昔に戻れるんならお母さんとおった瞬間を選ぶって、俺はもう決めてる。どんな抱っこやったかも覚えてないけど、そこめがけて飛び込んでいく、今の言葉で何か話す。」児童養護施設で暮らす集の目を通して描かれる世界は、澱みのない透明だった。大人の善意も悪意も透明だからよく見える。鼻の頭を中指で叩いて目をつむったら、シャッターを押したことになる、と集は大事な景色を覚えていようとする。いじらしくて抱きしめたい。こんなに素敵な子が母に愛されてなかったわけがない、愛をいつか知る時まで生きて、生き抜いてねと祈った。2021/12/14
ジュール
9
「ここはとても速い川」は淀川辺りに養護施設にいる小学生の男の子の心の中の独白。日常生活や感じていることがすごく生々しい。そして少し重い。「膨張」の方はネットカフェなどを転々としている塾の講師のあいりの日常。これも特異な生活だがやはり変なリアリティがある。著者は詩人。なんか納得。2022/04/18
真琴
8
表題作と『膨張』の2作。表題作は、児童養護施設で暮らす少年と彼らの周りの大人たちとの関係を子供目線で描かれている。どうにもならない現実への諦めや望みを託す心情。大人の身勝手さに翻弄され、それでも自分たちの置かれている立ち位置をしっかり見つめる様が、関西弁で淡々と語られる。『膨張』はアドレスホッパーの人たちの話。なぜ彼ら彼女らがそのような生き方を選んだのかは私には理解できませんでしたが、何か規定された社会へ抗っているようにも感じた。一つ一つの言葉が飛び跳ね流れているようで美しい。 ★★★★☆2021/12/15