角川書店単行本<br> 複眼人

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角川書店単行本
複眼人

  • ISBN:9784041063262

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内容説明

ある日突然、台湾に巨大な塊が押し寄せた。それは人間が捨てた「ゴミの島」だった――。夫と息子を失い絶望する大学教師と、言葉を解さぬ島の少年の出会いを軸に、多元的視点と圧倒的スケールで描く幻想小説。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

のっち♬

135
台湾の東海岸にゴミの渦が押し寄せる近未来が舞台。環境問題に深い関心を持つ著者ならではの作品で、先住民の風俗や信仰、神話などをふんだんに盛り込んだ寓話的な世界観が特色。一時的に片付けても別のゴミが押しやられる様は現代人の問題意識を揶揄するよう。作家、海洋生態学者、地質学者など多岐に渡る視点は、現状を複眼的に捉えてグローバルな水準で取り組む必要性を訴えているのだろう。トンネル工事やアザラシ猟のようなわかりやすい例ですらジレンマは存在する。「激しい雨は今にもやって来る」—人類と自然の共存を静かに問いかける一冊。2021/09/26

榊原 香織

98
素晴らしいです。 この人の作品はどれも好きだな。台湾の若手作家。  ファンタジーと言っていい。 結構複雑です。舞台は台湾東海岸。様々な台湾原住民、外国人が出てきます。 オシャレです。スウェーデンの建築家アスプルンド、サラマ・コーヒー(本当にあるのか?)、ボブ・ディラン"A Hard Rain's a-Gonna Fall" 等、さらっと出てきます。2021/06/04

アナーキー靴下

92
海洋漂流ゴミをきっかけに、こんなにも美しく切なく、残酷なのに優しい物語を作り出せるなんて、本当に呉明益という作家は素晴らしい存在だと思う。死が満ちながらも生の躍動を感じる、表裏一体の世界。読みながら、幼い頃テレビか何かで見た、ゴミの島だった夢の島の風景と、ゴミ処理施設の煙突を思った。今の時代はゴミ処理施設から出た熱エネルギーを隣接の温水プール等で再利用したりしている。私は煙突をその見た目からオベリスクと呼んでいたけれど、ゴミを焼き尽くすのではなく循環の象徴、紛うことなき記念碑だったのだと気付かせてくれた。2021/06/28

藤月はな(灯れ松明の火)

80
最近、こんな予感が付き纏ってならなくなった。「私達の世代は子孫から異常気象などに象徴される地球からの叫びに対し、死に体になるまで貪り、何もしなかった事を非難されるのではないか」と。「人間はこれ以上、地球を殺さないように増えない方がいいのではないか」と考えるサラはその恐れを刺激する。そしてデトレフが台湾でダム工事を手掛けた際の人間に都合の良いように矯める事が出来ない自然に対する畏怖は「椿宿の辺りに」の暗渠で受けたショックをも思い出したのだ。複合的に事象を見ながらも介入できない複眼人の涙。どうすればいいのか。2021/08/20

ヘラジカ

73
『歩道橋の魔術師』はその狭小感と過度に美化されたノスタルジーがどうも好みに合わなかったが、この作品はミクロな視座と神話的で詩感を備えた文章が、黙示録の予兆と不穏を表現するのに効果的となっている。儚い人々の生を通して”複眼的”に語られる地球の運命。神か精霊か、人類の行く末を難解な言葉で暗示する超越的存在。果たして架空の島ワヨワヨはアリスたちが住む世界と同一の空間にあるのだろうか。寓話性と謎に満ちた警告の幻想文学。パワーズの『オーバーストーリー』に通底する作品だと感じた。2021/04/04

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