内容説明
この世は、すべて幻なのです。現実なんてものはない。ただ、映っている影だけが見える。そうではありませんか?――主人と家政婦との三人で薔薇のパーゴラのある家に暮らす「彼女」。彼女の庭を訪れては去っていく男たち。知覚と幻想のあわいに現れる物語を繊細かつリリカルに描く衝撃作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
54
森博嗣の詩的世界。正気と狂気がグラデーションになっているのがリアルだった。2018/11/29
りつこ
39
面白かった。なんかもっと理系な(?)作品を書く人だと思っていたので、こんなふうに幻想的で抒情的な作品を書くのかと驚いた。夢と現実が入り混じり本当に起こったことは何だったのかがよくわからない。でも最初は不幸にしか見えなかった彼女が幻想が進むにつれて徐々に幸福そうになってきたからそれはそれでいいのか。幸福と不幸、生と死が混じりあって不思議な後味だった。2019/03/03
rio
38
「彼女」の元を訪れては去っていく男たち。彼らと過ごした時間を通じて、幻惑的な世界に浸る幻想小説。ストーリー自体は掴み所がなく、よくわからないが正直な感想ですが、ゾッとする美しさが醸し出されていて不安定な危うさに酔ってしまいそうになります。主人公の「彼女」の思考が不安定なこともあり、霧の中をさ迷っているような気持ちになりました。静かでもの悲し雰囲気が切なさを呼ぶ物語でした。2019/07/09
紫伊
31
あまりにも美しく、触れたらさらさらと崩れてしまいそうな文章と情景。夢と現実の境目にいるような不思議な感覚で今までに感じたことの無い読書感。でもその感覚はとても好き。主人公の女性の周りには静かな音楽と死が横たわっていて、彼女に近づきすぎるとふっと死に誘われてしまうような。この感覚を自分の語彙力では表現しきれないのがもどかしい。2019/03/12
の
30
繊細で幻想的なお話。かなり独特な世界観で、これを綺麗な形で文字におこせる森さんの技量に舌を巻きました。あえて具体的な言葉で表現するならば、主人公は解離性障害を患っているのでしょうか。掴みどころがなく霧がかかったような展開が心地よく感じられ、読後の余韻が大変よいです。2019/11/04