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内容説明
明治41年3月、この界隈は、灰も残さない烈しい風の中に、猛火をあびている。火は町中を焼きはらう大火となり、翌朝になると、なすことをしらない罹災者の群れが、そこここにうごめいていた。火元は、万町の宝来屋で、初午の宵祭の火の不始末だった。宝来屋は、しばらく後まで町の怨嗟をひきうけながら、いつのまにか廃絶してしまって、現存していない。宝来屋を貸してくれ、というのは、火を貸してくれ、という新造語で、この土地ばかりに通じる流行語だったが、つい近頃まで、よく耳にした言葉だった。