感想・レビュー
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松本直哉
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抑圧者に強制された母語でない言語を肉体化せざるを得なかった詩人の、日本的なものへの二律背反的な思いと、棄ててきた遥かな祖国への苦い追憶と悔恨。白昼夢のような日本からの解放の「夏」から済州島が血で染まった陰惨な「春」まで、四季に沿った排列ながら、短歌的抒情を拒否して、戦後60年の時の流れの奥底に沈む錆と澱みを厳しいアイロニーをもって言語化してゆく。飽食と消費のこの国に異邦人として住むことの違和感と、年月を経ていまだに突き刺さったまま疼く記憶と。切り詰められたことばのひとつひとつが、重い。2016/12/04