内容説明
敗戦が間近に迫った暗い重苦しい日々、小さな手帳に秘かに書き始められた日記。人間を平和を祖国を愛した一知識人の苦悩の記録(全原文を写真版で口絵に収録)。書簡・エッセイを加えてその理解の助けとするほか、今回新たに発見された戦後数か月分の日記を収める。
目次
敗戦日記
続敗戦日記
串田孫一宛書簡
葦芽の歌
羈旅
素月を信ずる心
愛されない能力Unbeliebtheit
書痴愚痴
祈願
一九四六年の跋〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
厩戸皇子そっくりおじさん・寺
67
大江健三郎が師事した学者としても有名なフランス文学者・渡辺一夫が昭和20年の東京大空襲の直後から書き出した日記。一部日本語、大半フランス語で書かれたもの。それを日記で有名な博文館が出すというのが適材適所で良い。戦中戦後で発言が変わった文化人はちょこちょこいるが(これはこれで仕方がない事とも思う)、渡辺一夫は一貫して反戦である。毎日小まめに書いている訳ではなく、数日おきに書いているのだが、メモ的な書き方のお陰で箴言集のように読めたりする。日記の他にも反戦エッセイも掲載。このブレなさは確かに師事するに値する。2019/12/31
三柴ゆよし
17
一九四五年三月十一日から開始された日記の枕には、ダンテ『神曲・地獄篇』の彼の句<一切の望みを捨てよ>が躍る。<己は日本国民の爲なら死んでもよい。しかしdebacle〔潰滅〕のためにはnon!>と書いた渡辺一夫の思想はあくまで正しい。しかし正しい思想は常に弱く甘いということを熟知していたがゆえに、この日記に書きつけられた言葉には、玉砕か瓦全かの二者択一に揺れざるを得ない知識人の胸を打つ叫びがある。そしてまた叫びのなかに認められる祖国日本への愛と恥は、たしかに<あらゆる日本人>に読まれてしかるべきものである。2015/07/12
トーネン
2
「ユマニスムなるものは、たとえそれがいかに『甘く』且つ『無力』でありめしょうとも」とはっきりと書いた渡辺一夫。 フランス語で書かれた部分については一割も理解できたとは思えないけれど、真の文学者の気概とはいかなるものか、見せつけられたような気がする。 なぜか読了後に「ドン・キホーテ」を再読し始めた。どちらも勇気と叡智の書だと思う。2020/02/14
さやか
1
深い!2022/07/19
黒豆
1
3月11日から始まった日記。ひしひしと死を覚悟しているのが伝わってくる。その中で日本の立場を的確に理解し、ひどい過ちをおかしている日本を唾棄憎悪していると書く。フランス語で書かれているとは言え、戦時中にこれだけのことを書くとは・・・戦後、東条英機の写真を飾り、聖ペテロの行為を自らに戒めているという下りがあるが、「ペテロの葬列」を見ている今何ともタイムリー。2014/08/12