内容説明
親としての「覚悟」、職人としての「矜持」。神田明神下でひとり暮らす安次郎は、女房のお初に先立たれて五年。子の信太をお初の実家に預け、一流の職人として様々な浮世絵を摺ってきた。寡黙ながら、実直で練達な彼のもとには、摺りの依頼が次々と届く。ある日、義兄が安次郎の住む長屋に駆け込んできて、信太に一大事というが…。かけがえのない「家族」と、大切な「仕事」を守る浮世絵摺師を描く、あたたかな人情物語。
著者等紹介
梶よう子[カジヨウコ]
東京都生まれ。2005年「い草の花」で九州さが大衆文学賞を受賞。08年「一朝の夢」で松本清張賞を受賞。15年『ヨイ豊』で直木賞候補、歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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いつでも母さん
158
前作は読んではいないが今作だけでも十分に面白い。亡き妻の実家から息子を連れ帰る前夜、舅姑の気持ちの切なさにウルウルしてしまう。又この六つの息子がいじらしくてさらにウルウル。摺師として腕を試されるのも面白い。お仕事小説でもあり、そこに人情が好い具合に絡むのがまた良い。摺師は黒子、名も残らないが何か一つが欠けても錦絵は完成しないのだ。そんな父の背中をみて育つんだもの、信太よ、折れて曲がった親指もひっくるめて真っ直ぐに育って行け!と思って読了した。お薦めです。帯の葉室作家の言葉も良いなぁ。2018/02/06
ぶんこ
51
摺師安次郎が息子信太と一緒に暮らし始めました。そうなるキッカケとなった信太の指の骨折で、6歳の子供が痛さを周囲に隠そうとする気持ちが切なかったです。もっと痛い痛いと叫んで欲しい。舅姑や義兄、義兄の子供の信太への愛情も深くて、あらためて信太も安次郎も周りに恵まれていたなぁと感慨深い。幼馴染みの武士の妹友恵とも心が通い合い、信太が二人の元へ駆け寄ってくる物語の最後の場面が楽しい未来が予測できて爽やかな読後感です。2018/03/21
万葉語り
42
シリーズ2作目。武家に生まれながら幼いころ大火に遭い、今は摺師として生計を営む安次郎。石女だと婚家を出され、実家にもいずらくなった友恵。母を失い祖父母に養育された我慢強い不憫な信太。それぞれ意地っ張りなこの3人の明るい未来が予感できる終わり方でよかった。再読したい良作です。2018-422018/02/24
みい坊
39
読んでいて軽い違和感を感じると思ったらシリーズ2作目でした。摺師の安次郎さんが友恵さんを背負って帰ったエピソードが繰り返し語られるけれども、前作を読んでいないのでピンと来なかったのが残念。女房のお初さんに先立たれ、一人息子の信太くんを舅姑に預けて働く安次郎。寂しさをじっと堪えて回りの大人を気遣う姿がいじらしい。息子を引き取ると決めた夜、姑の心の揺れに共感して涙が滲んだ。最後の、腕競べ。惣右衛門の願いが察せられるだけに、どう決着するのかドキドキしてしまった。とにかく、前作も早く読もう。とても面白かったです。2018/02/25
信兵衛
36
ドラマチック、お涙頂戴といった大袈裟な展開はありません。基本的にどれも地味なストーリィ。でもそこが本作の魅力と感じます。2018/03/25