内容説明
この10年、ぼくは嵐の夜にがたがた鳴る鎧戸の音を無視して本を読むスヌーピーであった―日野啓三・高村薫からソンタグやブローティガンへ。無類の読書録。
目次
軽いノリの中に隠されている重い核―『ヴァインランド』トマス・ピンチョン
アメリカの原理が見えてくる小説―『パラダイス』トニ・モリスン
「終末」に対抗する想像力とトポス―『宙返り』大江健三郎
知力の基本的な働きを思い出す快感―『銀河の道 虹の架け橋』大林太良
魅力的な都市の楽しいエッセー―『アレクサンドリア』ダニエル・ロンドー
30年後に実感する歴史的アイロニー―『ドキュメント沖縄返還交渉』三木健
両国の本音をあらわにする対話―『我々はなぜ戦争をしたのか』東大作
20世紀という時代を描く重量級の小説―『舞踏会へ向かう三人の農夫』リチャード・パワーズ
人間の知恵のとんでもない奥深さ―『アフリカの音の世界』塚田健一
奴隷制を生きた人々が継承し創造した―『聞書アフリカン・アメリカン文化の誕生』シドニー・ミンツ、藤本和子編訳〔ほか〕
著者等紹介
池澤夏樹[イケザワナツキ]
1945年北海道帯広市に生れる。埼玉大学理工学部中退。75年から3年間ギリシャに暮らし、以後沖縄、ついでフランス、現在は札幌に居住。1987年「スティル・ライフ」で中央公論新人賞と芥川賞、『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、他にも受賞作多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
91
池澤さんの読書癖4冊、風神帖、雷神帖に続く読書エッセイ集です。1999年から2008年まで毎日い新聞の書評欄に掲載されたもの(ひと月に1回)をまとめたものです。わたしが手に取った本はこの中では数冊しかなくやはり文学者・エッセイストの池澤さんならではの選択になっています。文藝作品ばかりではなく現代世界で問題となっているような作品も数多く選ばれています。少し読みたい本が増えました。2023/10/28
小太郎
27
再読本。10年以上前の本ですが取り上げられている本や書評の内容は少しも古いとは感じません。残念ながら前読んだ時にチェックした本の半分も読めていないけど(再確認 笑)。池澤さんが監修して河出書房から出ている日本、世界文学全集の内容など見ても作家はもとより書評家としてのたぐいまれな才能を感じます。本当にこの全集は目から鱗、老後の楽しみとして最初から読みたいと思ってます。改めてこの「嵐の夜の読書」でオールランドで興味深い本を目の前に差し出されると、ちゃんと読まなくちゃと反省!2022/03/08
三柴ゆよし
26
狭く深く読むか広く浅く読むかという問題はなにも読書にかぎったはなしでなく、私たちの世界の見方にも関わってくる。作家としての池澤夏樹にはこれまで触れたことがなかったが、4巻からなる『読書癖』及び本書(『読書癖』よりも語り口が格段に滑らかでポップ)を読むと、彼がまずもって読む人、それも広く深く読むことの類いまれな名手であることがよくわかる。個の世界にずぶずぶと浸るのではなく、世界とつながるための読書。健全なバランスと身体性をもった読みという気がする。手元には『読書癖』がまだ三冊。スヌーピーの夜はふける。2016/12/14
白義
19
嵐の夜に、その嵐に震えながら家で本を読む。その時だけは嵐の恐ろしさを忘れられるが、同時に嵐に止む気配がないなら人はいずれ外に出ないといけないし。池澤夏樹の書評は、いわば嵐から身を隠しながらもその嵐を理解し、嵐に立ち向かう知恵を思索するような書評である。自己と社会を繋ぐ、内面と世界の対話、達者で短い中に工夫のある文章、どれをとっても理想的な書評であり、読みの深さである。政治や社会にとどまらず文学、科学まで、広範な分野でクオリティが一貫していてほとんど外れがない。微温的な良識者すぎる点はあるが誠実な証拠だろう2017/05/03
小葉
9
1999〜2008年の毎日新聞「今週の本棚」の書評をまとめた1冊。自分の読書の浅さ狭さを思い知る。100冊以上紹介されている中、既読はたったの3冊。私にも読めるかな読んでみたいなと思う本を何冊かチェックしたけれど、それすらも実際には読めるかどうか。ここにあがった本の大半は私には読まれることはないだろう。でも、池澤氏がこれらの本から得た知識や感動を、この「書評」を通して、ほんのひとかけらだけど、いただけたような気がする。2010/05/24