出版社内容情報
ベルメール、エルンストと親しかったシュールレアリストの画家・詩人が自ら分裂病の病誌を綴る。
目次
ジャスミンおとこ
最後の(?)発病の覚え書
はじめての発病のころの二つの手記
二人ゲーム
病院にて
暗い春
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
36
彼女にインスピレーションを与え、(精神的に)圧倒的現実から守っていた「ジャスミン男」。芸術的才能と同時に不安定な魂を抱えて現実が幻想のように見える乖離に生煮えの湯の中の蛙のようになりつつも、物事が分かるにつれて時にその圧倒的現実との違和感で拒絶する苦しみはアンナ・カヴァンも連想させてなりません。白衣の男は医者→不安定な安寧の中で自分の「中」から死へと誘うものへの変化の隠喩なのか?2013/05/27
兎乃
33
詩集“魔女文書”、ベルメールのペーパー・オブジェ。友に本書を読むと言った日に贈られる。彼女はタナトフィリアに溺れたのではないと思う。ネルヴァルの詩句“紫色の心臓をした薔薇”(獨逸語訳)でアナグラムを編む、不吉で禍々しい言葉を冷静に摘出する彼女。氷河の底にある美しい何か、三人称記述、厳格な規則が支配するアナグラムに身を投じ、予め体内に宿り身を分けた影と香。“不幸がなければ この世は耐え切れない”、何度も沈み読み返したい。一雫のJ'adoreと“メゾン・ブランシュでの休暇”へ。白灰の空、白に降る雨の日に。2015/07/07
evifrei
25
統合失調症を患った女性が書いた病誌。症状が完全に落ち着いている状態で書かれたものではないので、一部意味の不明瞭な箇所もあるのだが、そうした点も気にならない程に文学的な美しさに溢れている。彼女を監視するものであると同時に愛の対象として描かれる「ジャスミンおとこ」。端的には幻覚と妄想に由来するのだろうが、白いジャスミンの咲き誇る庭にいる彼の姿は詩的で切ない郷愁に似た愛着を感じさせる。幼少時の体験を綴った「暗い春」は何処までが事実として存在したかは別として、彼女の抱える喪失の哀しみに胸が締め付けられた。2020/08/30
凛
18
昔よく見た地球の緯経度を鉄パイプで具現化したような遊具、高速回転しているあれに掴まる。気を少しでも抜けば振飛ばされてしまうので必死にしがみ付くけれど、そうまでしても見えるのはただただ溶けた景色のみ。そんな中時折なにがしか綺麗なモノが見える。見えた。それが本当かどうかは重要じゃなく、その綺麗なものが私の心を一瞬でもときめかしたという事実が全てだ。遊具から手を離し地に足を付けた時感じる三半規管の暴走。その酩酊に恍惚とする、それが私にとっての「暗い春」であった。2013/08/17
eirianda
13
こんな精神病院の邦画を観たな。タイトル忘れたけど。『カッコーの巣の上で』より、その邦画を思い出した。白い人が時折寄り添って話しかける。現実より幻覚がリアルになる。訳本で読むと妙に幻想文学のように美しいのだけど、ドイツ語の原文はどんなものか。訳者の西丸四方氏は精神医学が専門のようだけど…。暗い春が良かった。これ、分かる女性は多いと思う。2016/09/21