内容説明
二十一世紀探偵小説の現在‐未来を一本に紡ぐ笠井潔渾身の評論集。
目次
1 脱格系とセカイ系(本格ミステリに地殻変動は起きているか?;「近代文学の終り」とライトノベル;社会領域の消失と「セカイ」の構造;戦闘美少女とilya;大量死=大量生と「終わりなき日常」の終わり;偽史の想像力と「リアル」の変容)
2 『容疑者Xの献身』論争(『容疑者Xの献身』は難易度の低い「本格」である;勝者と敗者;環境管理社会の小説的模型;ベルトコンベアは停止した―コメンテイトとクリティックの差異)
3 探偵小説論の断章(監獄/収容所/探偵小説;探偵小説における幻想;探偵小説と二〇世紀の「悪魔」;異様なワトスン役;九二年危機と二人の新人―麻耶雄嵩と貫井徳郎;安吾と探偵小説;私立探偵小説と本格探偵小説)
著者等紹介
笠井潔[カサイキヨシ]
1948年東京生まれ。79年に『バイバイ、エンジェル』で角川小説大賞受賞。98年『本格ミステリの現在』編纂で日本推理作家協会賞受賞。2003年に『オイディプス症候群』と『探偵小説論序説』で本格ミステリ大賞小説部門と評論・研究部門を同時受賞。小説、評論など幅広い分野で活動する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ばりぼー
41
「容疑者Xの献身」論争。「容疑者Xの献身」は難易度の低い本格である。この作品が変形された倒叙=叙述探偵小説であり、その形式さえ踏まえるなら、初歩的な読者以外は物語の前半で真相を見抜くことができる。私は109頁までで真相を特定した。これを傑作として評価しがたいのはたんに論理パズルとしての水準が低いからではなく、探偵小説的精神が形骸化しているからである。感動症候群にとりつかれ「泣ける話」を麻薬のように求め続ける読者を対象に、その態度を追認し合理化するだけの小説は、探偵小説の精神を喪失した抜け殻にすぎない。2014/08/13
Ecriture
8
探偵小説史の整理人。奈須きのこや西尾維新らに対する読み、反応としては最も冷静で興味深い議論がなされていると思う。東野圭吾『容疑者Xの献身』にミステリ界からこんな大論争が巻き起こっていることは知らなかったし、各論者の奮闘ぶりも興味深く読んだ。ただし著者の「二十世紀探偵小説の精神」がどうのこうのというこだわりには、やはり私も共感することはできない。ここのコメント欄見ててもやっぱりという感じ。探偵小説が20世紀精神や21世紀精神を宿さなくてはいけない云々と言われても……。2012/01/17
ぐうぐう
8
本書を読んで、いわゆる『容疑者Xの献身』問題の全貌が理解できた。笠井の『容疑者X』批判は、彼が主張している20世紀精神から生じた探偵小説という観点からあまりにも薄弱な存在としてあるはずなのに、それを本格ミステリ界が諸手をあげて評価したこととの差異にある。そこに脱格系やセカイ系の台頭も絡んできて、笠井の厭世観はピークに達し、ついに『容疑者X』により第三の波は終結したと唱えるに至る。さすがにそれは言い過ぎな気もするが、笠井の心境も理解できる。中でも「ホームレスが見えない」説は、「実におもしろい」。2009/07/14
いちはじめ
5
ミステリ評論集。笠井のいう「脱格系」を論じたもの、「容疑者Xの献身」論争、その他の小論の三部構成。三分の一を占める「容疑者Xの献身」批判は、やはり無理があるのではないか。この人の悪い癖で持論の批判にはむきになって論破しようとするのが裏目に出ているように感じた。2008/12/16
ハイザワ
4
戦争により匿名化した人間の大量死という衝撃を探偵小説が反映しているという前提のもと、その死の匿名性に対抗してきたのが20世紀の探偵小説であったという笠井の探偵小説観がよく分からない(匿名の死への対抗、という論点が謎)ため、『容疑者Xの献身』論もいまいち腑に落ちなかった。結論は笠井自身の探偵小説観にそぐわない読みをしている評者はおかしい、というものであり、自分の主張が無限極大的に適用されるはずだということを疑っていないという点で、「セカイ」と遭遇したのは笠井潔本人だったということになってしまうように思う。2018/01/20