内容説明
“朕は天の子、新たな世界の祖となるだろう”中国全土をはじめて統一し、秦王朝を樹立した始皇帝の人間像を雄渾の筆致で活写。注目の新鋭が書き下ろす中国歴史小説の傑作長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
4
中国の古代、戦国時代。新興国秦は若き政を王に戴いていたが、実質は 現太后の母の情人・呂宰相の手のうちにあった。実の弟に反乱を起こされ、さらには呂から、「実は政は秦の先代の王の子では なく、自分と現太后との不義の子である」と知らされる。自らのアイデンティティを失った政は、「天の子になればよい」と 前人未踏の中国統一に向けて手段を選ばぬ茨の道を突き進む。 兵馬ようが生きた人間そのままの形であることを思うと、親の因果が子に報い、 生きている人間は誰も信じられなくなった政の絶望の深さが推し量れる。 2005/11/04
名駿司
2
★★☆☆☆ 狩野氏なのでもっと斬新な解釈や創作があるかと期待したが、大筋において広く知られたものの焼き直し。佞臣ではない李斯と、尉繚の存在が興味深かった。元が面白い話なので、全段を描くとボリュームが大変なことになる。後半は事象の羅列になっていた。1冊にまとめるなら、少年期から中華統一期までに絞っても良かったかも。タイトルに繋がる心理描写はとても上手い。また、タイトルだけで誰を題材にしているか一目瞭然なのも、この作者の良いところ。2017/07/19
sa-ki
1
始皇帝の心の内に迫りつつ、その生涯を綴った歴史小説。出生の疑惑に揺れながらも中国統一へ邁進していく青年時代から、祖霊を否定した自らの魂の行方に不安を抱き、不老不死の仙薬を求める一方で、墓陵内にひとつの世界を作り出そうとした晩年。秦王朝の「血」という寄る辺がないことが、常に不安や孤独を生み出している。始皇帝の功績も罪過も根底にあるのはそれだろう。そして、最期の願いが踏みにじられたことが彼の人生を象徴しているよう。2012/02/26