内容説明
江戸が東京と名を変えて一年。徳川家の駿府引きこもりの煽りですっかりさびれたこの町に、頭巾を脱いだ鞍馬天狗が海野雄吉の名で暮らしていた。もう自分は退き、新しい時代を担う青年にすべてを託す考えであった。だが、武家町で不審な男に尾けられ、逆に縛り上げてやった雄吉は、その男が何者かに殺されたことから、またも事件に巻き込まれる。新時代の槌音響く東京を舞台に繰り拡げられる傑作時代小説。
感想・レビュー
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新地学@児童書病発動中
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鞍馬天狗の視点で江戸から明治への移り変わりを描いた傑作時代小説。まだ江戸の面影が色濃く残っている東京の街並を描く作者の筆は冴えている。荒廃した武家屋敷を描写した次の章で、洋風のホテルをさり気なく描くところなどは本当に巧い。旗本の千両箱を盗み取ろうとする武士の残党の裏をかく、鞍馬天狗の活躍を描くメインのプロットも面白い。体制が変化しても、相変わらず悪がのさばっている社会に嘆息している鞍馬天狗に作者の本音が表現されていると思う。五稜郭の戦いから帰ってきた若者が立ち直るラストは、希望に溢れて爽やかだった。2015/12/20