プラチナ・ファンタジイ
夏の涯ての島

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  • サイズ B6判/ページ数 438p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784152088871
  • NDC分類 933
  • Cコード C0097

内容説明

ときは1940年、ヨーロッパ。さきの世界大戦ではドイツが勝利し、フランスはドイツと平和協調路線をとった。これに対し、ファシズムと軍事拡張路線を推進するイギリスは、国際社会で孤立していた。国内では、好戦的なムードと力のある指導者への崇拝の気運が満ちている一方、政府の政策によってユダヤ人や同性愛者は屈辱的な差別を受けていた。病に冒された老境の歴史学者グリフは、この国のカリスマ的指導者ジョン・アーサーの旧知として恩恵に与っていたが、こうした現状に疑問を抱いてもいた。なぜなら、全体主義で牽引力を発揮するジョン・アーサーこそ、かつて若く輝ける日々に彼が愛した男であったからだ―架空の時代を背景に、繰り返される歴史上の愚行と個人の無力を鮮やかに見せる表題作(世界幻想文学大賞・サイドワイズ賞受賞)など、SF的発想に端を発し、さまざまな“変化”に直面した人間の心の機微を、詩情に満ちた物語に結実させた選りすぐりの傑作七篇を収録する、日本オリジナル短篇集。

著者等紹介

マクラウド,イアン・R.[マクラウド,イアンR.][MacLeod,Ian R.]
1956年8月6日、イギリスはウェストミッドランド州ソリハルに生まれる。バーミンガム総合技術大学で法律の学位をとり、卒業後は国家公務員として30代まで勤務するかたわら作家を目指す。1989年、『ウィアード・テイルズ』誌にデビュー短篇“1/72nd Scale”が採用され、ネビュラ賞候補にもなった。1990年、妻の妊娠を機に専業作家となり、以後多数の作品が有名SF誌やアンソロジーThe Year’s Best SFなどに掲載・収録されている。1999年に「夏の涯ての島」で世界幻想文学大賞、および歴史改変小説に与えられるサイドワイズ賞を受賞。翌年には「チョップ・ガール」で世界幻想文学大賞、アシモフ誌読者賞を受賞した。また、2002年には「息吹き苔」でもアシモフ誌読者賞を獲得。このほか、作品は英国SF協会賞、ティプトリー賞などにノミネートされ、短篇の名手としての評価を確たるものにしている。長篇ではThe Great Wheelがローカス賞処女長篇部門を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

MICK KICHI

79
表題作はタイトルに惹かれる。第二次大戦の頃ファシズムに蹂躙されつつある英国を舞台にした歴史改変ミステリーもの。過去現在と運命に弄ばれる二人の男を淡々と描きながらも短い夏のひと時を交点に別れゆく郷愁を詩情的に感じさせる。「ドレイクの方程式をこえて」バイオテクノロジーの進化で地球外生命体に興味を失った時代に、探索に人生をかけた男の話。「帰還」ブラックホール探査で何度もループを繰り返す男の話。この三篇が独特の寂寥感を持った語り口で心に残った。最後の二編のファンタジーものは世界観に馴染めずギブアップ。難易度高し2018/08/28

藤月はな(灯れ松明の火)

72
ファンシーな設定に孤独を湛えた叙情に満ちた短編集。「帰還」の世界がクルッと反転するような最後の一文に衝撃。「わが家のサッカーボール」は人が感情の動きによって動物に変身できる世界というのがファンシーでありながらもサッカーボールに一生、なり続ける「兄」のことを受け入れる家族の愛が心に染みます。表題作の最後に覚えたのはどんなに個人が足掻いても大きな流れには逆らえないことへの虚しさと過ぎ去った時への懐かしさ。人生は、いつも虚しく、それでも人を生かし続けるだけの希望を伴って続いていく。それは哀しくも可笑しい事実。2016/02/01

miyu

40
「夏の涯ての島」がとにかく素晴らしく、この作品だけでも読む価値があると思う。確かに背景からすると(改変歴史)SFなのだろう。しかしここで語られていることは世界や時代がいくら変わろうともけして変わらない、むしろ変わることのできない普遍的なことだ。人を愛さずにいられない気持ちは止められないし、心ならずも裏切ったり裏切られたり、傷つけたり傷つけられたり。そんなことばかりが今までもこれから先も永遠に繰り返されてゆく。まるでイギリス映画のワンシーンを観ているようだ。胸が締め付けられてたまらなくなる。とてもよかった。2016/11/04

キキハル

27
SF世界を基にした湿度の高いファンタジー短編集。「帰還」は死んでいるのに何度も帰ってきてしまう宇宙飛行士の身の置き所のない悲しみ。「我が家のサッカーボール」はすべての人が変身できる世界で起きた母子愛が胸を打つ。「チョップガール」は死の魔女と幸運のパイロットのラブストーリー。そして表題作の完璧さ。地味で退屈なグリフの半生記には、ユダヤ人や同性愛者が迫害されるイギリスでの思い出が。どれも派手ではなく盛り上がりも少ないのに読み続けてしまう不思議な力が、この本にはあるのだと思う。読後感もしみじみとよい良作。2011/09/18

臓物ちゃん

13
最近読んだ『世界の涯ての夏』にタイトルが似てたのでちょいと読んでみたらすっげぇ良かった…。特に表題作の歴史改変SFが俺の好みにドンピシャリ。1940年、先の大戦で敗北した英国はいまやファシズム政権が君臨していた。しかしその総統はかつての主人公のおホモダチで…そんな設定だけだと筒井作品みたいなバカ話を想像するけど、英国式独裁社会の子細が四季を絡めつつ情緒たっぷりに描かれていて、まるで一枚の風景画を観てるかのよう。この作り込まれた世界観を堪能するのが歴史改変の醍醐味なんだよなぁ。「チョップガール」もオススメ。2016/01/10

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